探県記 Vol.56

菅谷たたら山内

(2016年1月)

SUGAYA TATARA SANNAI

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  • 内山興
    初代キャプテン

 

映画『もののけ姫』に出てくる“たたら場”のモデルは全国で唯一現存する、この菅谷高殿でした

 

島根県雲南市吉田町の山奥、標高350mの谷間に、忽然と姿を現す大屋根の建物があります。それは、高さ約8.6m、周囲18.3mの国の重要文化財、全国で唯一現存する江戸時代の製鉄工場『菅谷高殿』です。
 
吉田町で高殿式製鉄が始まったのは、約300年前。原料である良質な砂鉄と、見渡す限りの豊富な森林資源に恵まれた地は、現在、ひっそりと眠っているような町並みですか、最盛期には、2000人もの従事者が働いていたといわれます。
 
菅谷高殿は、宝暦元年(1751)から大正10年(1921)までの170年間、操業が続けられていました。和鋼の衰退で操業の火は消えましたが、日本で唯一残存する施設として、昭和42年(1967)に重要有形民俗文化財『菅谷たたら山内』に指定。老朽化が進んでいた建物は、文化庁の指導を得て本格的な保存整備が行われています。
 
ちなみに山内(さんない)とは、高殿をはじめとする関連施設や、たたら製鉄の従事者が暮らす集落一帯を称した呼び名です。
 

高殿にもう2度と火が入ることはありませんが
確かに神様の存在を感じることができました

 

高殿の中は、ほの暗くて神秘的。中央に製鉄炉があり、その両脇に、炉の中に風を送る足踏み天秤鞴(ふいご)がある仕組みです。
「ひとつの高殿で、約20人ほどが働いていましたが、炉の中に砂鉄を装入できるのは、技術長の村下(むらげ)と、裏村下とも呼ばれた2番手の炭坂(すみさか)だけ。村下の仕事は世襲制で一子相伝。高度な技術の流出を厳重に防いでいたようです」と朝日光男さん。菅谷高殿・山内生活伝承館の施設長さんです。

 

面白かったのは、足踏み天秤鞴のお話。天秤鞴を踏むのは“番子(ばんこ)”と呼ばれる下役の仕事で、炉に火が入る3日3晩、6人の番子が1時間毎に代わる代わる行っていました。そこから「代わり番こ」という言葉が生まれたのだそうです。

 

 
高殿の傍らには、桂の巨木がそびえています。桂の木は、たたら製鉄の神様である金屋子神(かなやごかみ)が、白鷺に乗って降臨されたと伝わる木。たたら場がある所には必ず、桂の木が植えられていたのだそうです。
桂は年に1度だけ4月初旬に芽吹き、木全体を真っ赤に染めます。その期間は、たたら操業と同じ3日間。そして、中旬には黄金色に、下旬にはあざやかな緑に染まります。そのあまりに美しい様子は「鳥肌が立つよう」とも評されています。
探県隊が訪れたのは、10月の中旬。もちろん、たたら操業の炎のような真っ赤な桂には出会えません。けれど、甘いスイーツのような香りがあたりに漂っているのを不思議に思っていたら、その正体こそ桂の木の葉の匂いでした。

 

 
【アクセスについて】
●菅谷たたら山内へのアクセス/JR木次線木次駅よりタクシーで約30分
●島根県雲南市吉田町吉田4210-2

【WEBサイト】鉄の歴史村地域振興事業団
 

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