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STORY
[伯州綿] 弓ヶ浜半島だからできた良質でやさしい国産和綿
鳥取県境港市は、県西部の日本海側に伸びる弓ヶ浜半島の先端に位置し、国内有数の漁港として知られる地域です。県西部は旧国名を「伯耆国」と言い、その略称は「伯州」。特産品の一つにその名を冠する「伯州綿」がありました。
ふわっふわで力強い「伯州綿。
弓ヶ浜半島で江戸時代から栽培が行われている国産和綿「伯州綿」。砂地で水はけの良い土壌が綿栽培に適していたことと、農家さんによる改良の積み重ねによって良い種が生み出されたことで、最盛期には国内有数の綿の産地となっていました。
境港は古くから国内有数の良港だったこともあり、伯州綿は北前船によって各地に流通。その名は全国へと知れ渡り、弓ヶ浜にコットンラッシュが到来。鉄よりも綿の方が高価だった時代があったほど。繊維が太くて弾力性に富み、保湿性に優れた伯州綿は、布団や着物の中入綿などとして重宝されていたのです。
しかし明治期になると、綿の関税撤廃によって安価な外国産綿が台頭。日本国内の綿栽培は一気に衰退してしまい、伯州綿も弓ヶ浜から姿を消してしまったように思われていました。
けれども伯州綿は、国の伝統工芸品にも指定される「弓浜絣」の原料として地域で守られ、その栽培は細々ながらも続けられていたのです。
地元有志に守られた栽培技術 頼もしい伯州綿のリスタート
2008年、境港市農業公社が主体となって、後世への継承を目的にした在来種「伯州綿」の栽培がリスタート。伝統的な地域資源を後世へ継承していく取り組みが始まりました。遊休農地を活用し、地域おこし協力隊や栽培サポーターのみなさんとともに、農薬や化学肥料を一切使用しない、人や自然に配慮した安心・安全な伯州綿づくりが再開されたのです。以来、栽培面積は年々拡大して収穫量も増加。現在では日本一の生産地として、和綿栽培のトップランナーにまで成長しています。
農薬や化学肥料を使わない伯州綿づくりには、たくさんの人の手が必要です、そこで、安心・安全な伯州綿づくりを支えてくれる地域の有志のみなさん「栽培サポーター」が活躍。農業公社が指定する畑で、種まきから収穫まで1年を通して伯州綿栽培を行っています。
こうして収穫された伯州綿は、農業公社が買い取って加工。伯州綿で編み上げられた綿ニットは、やさしい肌ざわりが特徴で、現在、境港市では伯州綿でつくった「おくるみ」を赤ちゃんに、100歳を迎えられる方には「ひざかけ」を贈呈する取り組みが行われています。
おくるみを受け取った親子は、次におくるみを受け取る親子のために、種まきや収穫に参加されるとのこと。こうしたやさしいコットンリレーが新たな地域のつながりを生み、伯州綿を後世に継承していく取り組みを支えているのでした。
伯州綿のコットンボールは洋綿に比べて小ぶりで、下を向いてはじけるのが見た目の特徴です。
7月・8月頃に黄色い花を咲かせ、順番にコットンボールがはじけて、ふわっふわの白い綿が可愛い姿を見せてくれるのが9月~12月。JR境線の車窓から目を凝らすと、伯州綿の畑を確認できるかもしれません。
カラフルで味わい深く
伯州綿の魅力を全国へ
和綿文化を全国に発信するため、伯州綿を使用したブランド「HAKU」も誕生。すべての工程において環境を考えた製法から生まれるオーガニック・コットン生地の商品を提供しています。オリジナルな染色技術は、有機伯州綿の枝葉で染めるという究極の綿木染を実現。浸染時間や温度の違いなどにより、綿木だけで染めたとは思えないほどカラフルな染め分けを可能にして、人工染料では出すことのできない味わい深さが表現されています。
このような特性が認められたHAKUは、2020年度「日本ギフト大賞」を受賞。地域の文化に根ざした独自性のある贈答品として評価されています。