Selection
STORY
鳥取の銘酒[因幡編] 鳥取の蔵元が自信を持っておすすめする銘酒を4本セットに。
古代より神宿る山として崇められてきた大山は、鳥取県の西部、日本最大級のブナ林を有する中国地方の最高峰。400年以上前から植林が行われてきた智頭林の里は鳥取県の東部エリア。
豊かな山から天然のフィルターを通って美味しい水が豊富に湧き出る鳥取県は、いかにも日本酒造りに相応しい土地といえるでしょう。水と米のみを使う純米酒の製造率が高く、約7割の蔵元が契約農家の米を使用。そんなところからも、いかに米を大切に扱っているかが分かります。
真面目で内気で、少し頑固なのが鳥取県人気質。誠実な蔵元のこだわりが、お燗をすればさらに際立つ鳥取のお酒。
今回は東部エリアの因幡から4蔵元を選んでみました。
悠然と空を舞う鷹のような、キレの良い芳醇な酒であれ
JR浦安駅から徒歩15分。鳥取県の中央に位置する琴浦の町の中に、明治5年(1872)創業、大山の伏流水を仕込み水に使用する大谷酒造があります。
愛鳥家だった初代蔵元が「鷹が空を舞う雄姿」をイメージする辛口でキレの良い酒を好んだことから、代表銘柄「鷹勇(たかいさみ)」が生まれました。
「純米吟醸なかだれ」は、出雲杜氏の酒造りを継承し、酒造好適米である山田錦と玉栄を絶妙なバランスでミックス。お酒を搾るときに最初に出てくる「あらばしり」後の、香りと味のバランスが一番良い「中取り」の部分を取りためて詰めた、まさにいいところ取りのお酒。
燗でも冷でも芳醇な辛口が味わえると評判です。「日本酒はアミノ酸が豊富。お肌に潤いを与えますよ」と優しく微笑む大谷修子社長。しっとり潤うそのお肌を見れば納得です。
出雲杜氏の酒造りを継承し、山田錦と玉栄をミックス。「あらばしり」後の、香りと味のバランスが一番良い「中取り」を取りためて詰めた、いいところ取りのお酒。
モットーは「醸は農なり」酒造りも酒米作りも等しく尊い
古くから因州和紙の産地として知られる青谷町。上質な紙漉きにとって重要な水資源豊かなこの地に、明治20年(1887)に創業した山根酒造場。仕込み水には「布施の清水」と呼ばれる超軟水の湧き水を使用しています。そして、米へのこだわりは全国的に見てもおそらくトップクラスで、蔵元が求める酒米を作るべく契約農家の生産者さんたちが情熱を注いでいます。「日置桜(ひおきざくら)純米酒」は最もスタンダードで、木にたとえるのなら幹となるお酒。それだけに毎年工夫を重ねているのだそう。「優等生でありながら、やんちゃなところもある。勇気をもってお試しください」と山根正紀社長。他のお酒にくらべて色が濃く、しっかりとした旨味。お燗をすればさらに心に染み入ります。この味を受け止めたなら是非その先の枝葉となるお酒も試していただきたい。さらなる日本酒の奥深さに気付かされることでしょう。
契約農家のが情熱を注いだ酒米と「布施の清水」と呼ばれる超軟水の湧き水を使用した日本酒の奥深さに気付かされるお酒。
幻の酒米「強力」復活の立役者
独占をよしとせず広く皆で高めあう
JR鳥取駅から車で約8分。土蔵風な建物が江戸時代から続く酒蔵の誇りを感じさせる中川酒造は文政11年(1828)の創業。仕込み水には、200メートル東にある天神山の麓の弱軟水の井戸水を使用しています。「鳥取にしかない水と米で真の地酒を」と決意した中川盛雄社長は、途絶えていた鳥取の酒米「強力(ごうりき)」の復活を求め、鳥取大学に保管されていたほんの一握りの種籾を入手。契約農家さんの協力を得て、平成2年、ついに地酒「強力」復活を果たしたのです。鳥取のオリジナル米として守るため「強力を育む会」を結成し、現在、県内8蔵が加盟。酒米「強力」のお酒を造っています。いいものは独占するのでなく、皆で高め守っていく。中川酒造のその姿勢が「いなば鶴」に溶け込んで優美な味を奏でているようです。
途絶えていた鳥取の酒米「強力(ごうりき)」から、地酒「強力」の復活を果たした中川酒造。鳥取にしかない水と米で造る鳥取の地酒。
先代杜氏の言葉「天のない酒造り」とは
慢心せず常に理想を求めよという教え
江戸時代、鳥取藩最大の宿場町として賑わい、林業で栄えた智頭の町に安政6年(1859)、諏訪酒造は創業。街道の名残が今なお色濃い風情ある町並に堂々と佇んでいます。蔵内の井戸から汲み上げる仕込み水は、かなり軟水の千代川の伏流水。山の頂から井戸まで約100年かけて辿り着く清く美しい水です。「土地の記憶を持っている水が、お酒の個性を支えています」と話す東田雅彦社長。「満天星(まんてんせい)」とは智頭町の山を彩るドウダンツツジのこと。山田錦で力強い麹をつくり、玉栄で野性味をプラス。やわらかい酸とやさしい喉越しから、この土地の水の特徴を感じていただけるはず。お燗にすると酸が引き立ち洋風な料理とも不思議とマッチします。料理と合わせて楽しめるように、香りよりも味を重視した酒造りが諏訪酒造流。酒蔵には3年熟成の「満天星」もあり飲み比べてみるのも面白いでしょう。
山の頂から井戸まで約100年かけて辿り着く清く美しい水を使ったやわらかい酸とやさしい喉越しをもつ、香りよりも味を重視したお酒。