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2024.12.05

当たり前が当たり前ではない時代に「子どもたちに食べ続けさせたい」と願い昔ながらの製法で造る醤油の味は格別でした

  • 島根県
  • 加工品/ 調味料

島根県仁多郡奥出雲町[森田醤油店]

島根県の東南、鳥取県と広島県に隣り合う中国山地のふもとに位置する奥出雲は、町内を流れる斐伊川の上流で、その昔、「たたら製鉄」が栄えた土地柄。「ヤマタノオロチ退治」などの神話も伝えられるどこか神がかったエリアです。斐伊川の支流には急流によって創り出された大渓谷「鬼の舌震」や、日本棚田百選に選定される「大原新田」などの景勝地が広がり、2023年に放送された大ヒットドラマ、日曜劇場『VIVANT』のロケ地となったことでも知られています。

JR木次線「出雲三成駅」のほど近く、斐伊川のほとりに森田醤油店さんはあります。その歴史は明治期の1903年ごろまで遡りますが、終戦間近の1945年4月、三成の町は大火によってことごとく焼失。そんな過酷な歴史を乗り越えた町はやがて活気を取り戻して、森田醤油店さんの醸造蔵も再建。県内産の丸大豆と小麦、そして、奥出雲の清冽な湧き水で仕込む自然塩醸造丸大豆醤油「むらげの醤」を筆頭に、手間も時間もかかる昔ながらの製法で、「子どもたちに食べ続けさせたい」醤油造りが行われています。

夏の暑さは日本海側と変わりませんが、夜になるとぐっと涼しくなる奥出雲。冬ともなるとマイナスの気温も珍しくなく、多い年には1m前後の積雪があるほどの寒冷地。「人間が生きるにはちょっと厳しい土地ですが、醤油造りには適しています」と話してくださるのは、森田浩平さん。4代目となる父・郁史さんと共に無添加の醤油造りにこだわり、麹造りから熟成・商品化までを自社蔵で行いながら、常にアンテナを張って“おもしろい方”へと舵を取る頼もしい若き担い手です。

森田醤油店さんの特徴は、通常3〜6ヶ月で商品化するところを、1年~3年をかけて醤油造りが行われているということ。その真相に僅かでも迫りたいと思いました。

五感を研ぎ澄まして自らが行う「麹づくり」は新年1月5日から始まって7月下旬まで続きます。

森田醤油店さんの1年は、麹造りから始まります。それは全国的に見ても、全醸造所のわずか1割にも満たないのだそう。それでも麹造りにこだわるのは「醤油の大事な部分は麹、国産の大豆と小麦でつくる麹にこだわりたい」と浩平さん。

蒸した大豆と炒った小麦に種麹をつけ繁殖させて造られる麹ですが、他所から仕入れる場合、大豆や小麦の産地は品種までの細かい指定はむずかしいのだそう。それが自ら麹造りをする理由のひとつ。

醤油造りには「一麹、二櫂、三火入れ」という言葉があります。つまり、麹が一番重要だということ。1回の麹造りに必要な時間は足掛け3日。「目で見て、鼻で嗅いで、自分の皮膚で温度を確かめる。五感を使って麹を造る」それが、森田醤油店さんの妥協のない姿勢。こうした真摯に取り組む麹造りは、毎年100回を優に超えているといいます。

商品ラインナップは、各種醤油やぽん酢など約30品目を数えます。そして、ぽん酢に使う出汁も他所からは仕入れず、鰹や昆布を煮出すところから自社で行っているという徹底ぶり。そこには、こんなエピソードがありました。

いまから30年以上前、醤油の味が県内外から評価されるようになり、次第に加工品も求められるようになって、ぽん酢の商品化にも挑戦。
試作を重ねて商品化が近づいたときでした。当時の生協の担当者から「これからは原料のもとの原料も調べて書かなければならない時代になる」と聞いて調べてみると鰹エキスにも鰹以外の成分が含まれていることがわかったのです。
「これでは安心して子どもたちに食べてもらえない」と即決断。以降、自分たちが納得できるものだけを、自分たちの手で造る道を選んだというわけです。

醤油といえば濃口に薄口、加工品としてぽん酢や出汁つゆなどが思い浮かびますが、森田醬油店さんの商品棚を見ていると目移りするくらいに楽しくて、料理ごとに使い分けてみたくなるほど。

現在、ミシュランガイド東京に掲載される日本料理店やラーメン店などでも使われているという森田醬油店さんのオリジナル商品。正しく造られた本物の味は、必ず然るべき場所に辿り着くのだろう。そんなふうに思えるのです。

「甦った木桶に仕込んだ熟成醤油  百年先も。」という長い商品名の醤油があります。

高さ2m以上ある木桶が並ぶ醤油蔵は圧巻です。3年ものという木桶の中では、プツ、プツと酵母が旺盛に働く音がして、もろみの息づかいのように聞こえます。昔ながらに櫂棒を使ってもろみを混ぜる姿は力強く、森田醤油店さんにとっては当たり前の光景。

こうした昔ながらの力仕事は、現在、ほとんどの蔵が圧縮空気で攪拌するのが一般的になった時代。それでも櫂棒を使って発酵を促すのは、桶ごとの状態を五感で確かめ「麹菌が働きやすい環境をつくるため」と明快なのです。

森田醤油店さんには、「甦った木桶に仕込んだ熟成醤油  百年先も。」と命名された熟成醤油があります。それは、2015年1月、木桶職人復活プロジェクトにて出会った木桶職人集団「結い物で繋ぐ会」の方々に木桶の修理・組直しの相談をし、2018年秋に新潟県の味噌屋さんから使わなくなった30石の巨大木桶を譲り受けたことに始まります。「結い物で繋ぐ会」の皆さんが木桶を慎重に解体して、奥出雲に輸送。到着後、蔵人と共に試行錯誤を繰り返して寸分の狂いがないよう組み直したのです。地元の真竹を切り、木桶を締める竹の箍(たが)を編み組んでいく作業は、体力と高い技術が必要な難しい仕事でしたが、6日間をかけ繊細な調整ののち、見事に完成させました。

そして、奥出雲産の大豆と小麦を使ってこの木桶で仕込むこと丸2年。こうして出来上がった熟成醤油が「甦った木桶に仕込んだ熟成醤油  百年先も。」です。再び命を吹き込まれた木桶と共に、100年先も木桶を修理しながら大切に使い続けられる技術、昔と変わらない製法を守り続けていこうとする森田醤油店さんの熱い想いが込められています。

しっかり編み組まれて甦った木桶は、きちんと手入れをしながら使えば100年、あるいは150年は保つのだそう。木桶も木桶づくりを継承する職人の技術も、守りたい貴重な日本の文化であり財産なのです。

自ら選んだ大変な道を「おもしろい!」と表現。そうか、だから醤油もおいしくなるのだと思えました。

森田醤油店さんの蔵では、醸造用のタンクとして木桶の他に、FRP製やコンクリート製も使用しています。「ほかの容器と比べて木桶の扱いは難しいですが、丁寧に使い続けることで安定しておいしい醤油を作ることができます。」と浩平さん。
麹造りにしても、木桶の再生にしても、あえて自ら大変な方を選択するのは、正しくておいしい醤油造りのため。それは過酷な作業のはずなのだけれど、その姿は自信にあふれていて楽しそうで、浩平さんの口から出たのは「おもしろくて造っています!」という言葉。
そうか、造る人がおもしろがって楽しんでいる。だからおいしい醤油になるのだろう!と、そんなふうに思えてくるのでした。

有限会社 森田醤油店

住所:〒699-1511 島根県仁多郡奥出雲町三成278
TEL:0854-54-1065

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