探県記 Vol.124

高見いちご縁

(2018年4月)

TAKAMI ICHIGOEN

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島根県安来市は山陰一の栽培面積を誇る
いちごの産地
栽培農家「高見いちご縁」さんを訊ねて、
そのおいしさに迫ります!

 
島根県安来市は、山陰一の栽培面積を誇る〝いちご〟の産地。道の駅『あらエッサ』で販売されているいちごは、いつも飛ぶように売れています。
もちろん山陰のスーパーにも並びますが、以前から、お目にかかる機会が少ないな…と感じていたことがあり、今回は、その理由も明らかにしたいと、JAしまね やすぎ苺部会64農家さんのひとつ「高見いちご縁」さんを訊ねて、代表の高見謙一さんにお話を伺いました。

 
「安来市は、朝晩の気温が低く、日照時間も少ないため、いちごの実がじっくりと時間をかけて熟成します。その甘さがギュッと詰まった完熟いちごだけを収穫して出荷。それが安来のいちごの特徴です。土地的にも、かつて飯梨川の底だった場所で水はけが良く、そのことも、いちご栽培に適しています」と高見さん。

 
いちごが赤く色づくには、光と温度が必要といわれ、日照時間が長く気温も高いと、まだ甘くならないうちに育ってしまうことになるのだそう。
その点、安来のいちごは赤く大きくなるまで、ゆっくりと時間がかかるので、その分、甘くおいしくなるというわけ。
そして、大きい粒に育てるために花の数を調節して、収穫数を制限しているのも特徴です。

 
高見いちご縁さんのいちごハウスは、全長60m。現在、6棟22アールで、「あきひめ」と「紅ほっぺ」を栽培されています。
「安来のいちごは、土耕栽培が基本。土壌の栄養をたっぷり吸収して、甘さの詰まったおいしいいちごになるんです」
案内されたハウス内、真っ直ぐに伸びる通路には、摘みとった葉っぱや籾殻(もみがら)がびっしり敷かれていて、湿度の調節をしてくれるのだそうです。

 
「ハエが飛んでいますが、寒いと動きが鈍るミツバチに代わって受粉効果を上げるために試験中なんです。」山陰の厳寒期にはミツバチの活動が鈍って奇形果が増えるためその改善と、近年のミツバチ不足への対応として利用されています。
また高見いちご縁さんでは、害虫を天敵の昆虫で駆除する天敵農法を実施。これにより農薬の散布回数も少なくてすむのだそうです。
 
目線をいちごに近づけようとしゃがんで見ると、葉っぱの先にたくさんの水滴を発見。
「根が吸い上げた水が、朝になると葉の先に水滴となって出てきます。これは根がしっかり働いている証拠。溢液(いつえき)現象と呼ばれています」
〝溢(あふ)れる液〟と書いて〝溢液(いつえき)〟──とても重要なシーンを見ることができました。

 

「安来のいちごを食べると他のいちごが食べられない」
そんな言葉に後押しされて、いちご栽培農家を継いで2代目に!

 
高見さんがいちご栽培農家を継いだのは、4年前。それまでは静岡県でサラリーマンの仕事をしていらっしゃったそう。
当時、地元からいちごが届くと、知り合いに振る舞っていた高見さん。すると、みなさんが「安来のいちごを食べると、もう他のいちごが食べられないほどおいしい!」と口を揃えて喜ばれた、それが、いちご農家を継ぐきっかけのひとつにもなっているのです。

 
高見さんのいちご栽培は、土壌分析や樹液分析など、データ分析に基づいて行われています。
「ベテランさんに比べたら、経験値もキャリアもかなわない。その不足分を補うための分析です。人間でいったらカルテのようなもの。いちごにとって最高の状態をつくってあげれば、おしいいちごができます」
 
そんな高見さんの完熟いちごを「ピカイチ」と評するのは、松江市のフレンチレストラン『Le Restaurant Hara au naturelle (ル・レストラン ハラ・オ ナチュレール)』のオーナーシェフである原博和隊員。JR西日本『TWILIGHT EXPRESS 瑞風』で提供されるランチにも使用されています。
また、昨年(2017年)誕生した、島根県の特産品を素材にした『しまねアイス』の、「いちごミルク」フレーバーに使用されているのも、高見いちご縁さんの完熟いちごです。

 
「来シーズンは、ハウスを7~8棟に増やして、冷凍いちごにも挑戦したい」と意欲を話してくださった高見さん。すでに息子さんが一緒に働かれていて、3代目も立派に育っている高見いちご縁さん。
安来の完熟いちごの未来は、その実と同様に大きくて甘く、明るいのだと思えました。

 
【アクセスについて】
●高見いちご縁へのアクセス/JR安来駅から車で約13分
●島根県安来市下坂田町579
【WEBサイト】高見いちご縁