探県記 Vol.133

中村茶舗

(2018年9月)

NAKAMURA CHAHO

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  • 木内吾平キャプテン

本格的なお点前をきっかけに
タイに抹茶ブームを巻き起こした
松江で最も古い老舗のお茶屋さん

 

 
いま東南アジアのタイで、抹茶が流行しています。この一大ブームを牽引するのが、島根県松江市の「中村茶舗」です。中村茶舗は初代、中村末吉が京都宇治の茶問屋「中村藤吉本店」から分家し、明治17年に創業しました。
15年ほど前からタイ、ベトナムに日本茶を輸出していた同社は、タイの現地企業と提携して2007年、バンコクの大きなショッピングモールに和カフェ「chaho」をオープンしました。

 
「日本からは伊藤園や福寿園など、大手メーカーが進出して煎茶を提供していました。そこで、抹茶のお店を出すことにしたのです」と語る4代目社長の中村寿男さん。
お店では抹茶メニューに加え、和菓子、茶道具などを総合的に演出。社長自らが出向き、ブースで抹茶を点てるお手前のパフォーマンスを披露するなど、日本文化の紹介にも尽力しました。まもなく日本の茶道が話題となり、2009年にタイ王室の皇太子妃にお手前を披露し、抹茶を差し上げる名誉を得ました。タイでは王室の人気が絶大。これを機に「chaho」は大ブレーク。広く国民に知られるお店に成長し、現在は3店舗を構えています。

 

創業より百年以上にわたり
受け継いできた家伝の味
築き上げたブレンド力が命

 
島根県松江市では、暮らしの中にお茶が根付いています。普通にポットからお湯を注いで抹茶を点てたり、煎茶を一日に何杯も飲んだり・・・・。そんな地域で、百年以上も愛されてきた中村茶舗のお茶は「やや淡白ですっきり」。その味には、中村社長のこんなエピソードが秘められていました。

 
まだ若かりし頃。全国の煎茶を飲む会に参加したとき、ブラインドテストをすることになりました。一番人気だったのは、自分も一票を入れた横浜の煎茶。自社が選ばれなかった悔しさに挫け、その煎茶を持ち帰って古参の茶師に試飲をしてもらうと「毎日飲んでこらん」と一言。飲み続けて3日目、なんだか飽きてしまいました。風味が口の中に残るのです。
「このお茶は一杯向けで、がぶがぶ飲むお茶ではないんだよ」と諭す茶師。いくら美味しくても、日常茶飯事という言葉の通り、お茶をよく飲む松江には向いていません。以来、中村社長は味が濃い、コクがあるなど、一つの基準だけでお茶の価値を判断することはないそうです。

 
「全国から茶葉を取り寄せて、独自にブレンドをいたします。ブレンド力が当社の命です」と製法について語る中村社長。不思議なことに、評判の高い静岡と京都のお茶を混ぜると喧嘩をして、それぞれの長所が出ないそうです。一方、とても相性の合う地域があり、創業より長い歴史の中で見つけ出してきた組み合わせと、秘伝の配合比が伝承されています。
今日、全国の茶商の中で、抹茶と煎茶の両方を製造しているのは、たった2割とされています。中村茶舗はその一つで抹茶工場を持ち、石臼挽きの工程をガラス越しに見学することができます。

 
特別に工場内に入らせてもらいました。一歩入ると抹茶の清々しい香りが漂っています。日本で初めて、電動で抹茶を挽く石臼を導入したのがこの工場でした。現在は40台の電動石臼が並び、毎日新鮮な銘茶がつくられています。
「小さい頃からお茶が大好きでした。からだに沁み込んだ家伝の味を守っていきたいです」と語るのは、工場で修業を積む次女の幸子さん。娘さん2人がUターンし、工場と店頭で働くなど有望な後継者も育っています。

 
松江市では「不昧公200年祭」が、12月末まで開催されています。松江七代目藩主、松平治郷(はるさと)は、江戸時代を代表する茶人の一人で号を不昧(ふまい)とし、その茶道は「不昧流」として現代に続いています。

 
中村茶舗では「不昧公200年祭」にちなみ、抹茶「中之白」など不昧公由来の3種を詰め合わせた「抹茶お試しセット」を発売し、お土産などに喜ばれています。また、観光列車「あめつち」の車内では、煎茶「八重垣」を味わうことができます。
お茶で一服、その語源は薬の「一服」。味わい深いお茶が妙薬のように、松江の旅を忘れられないものしてくれます。

 

 
【アクセスについて】
●中村茶舗へのアクセス/JR松江駅から車で約5分
●島根県松江市天神町6
【WEBサイト】中村茶舗
 
 

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