探県記 Vol.137

出雲の縁起 福こづち

(2019年1月)

IZUMO NO ENGI FUKUKODUCHI

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大国主大神にちなんだ伝説の宝物
美しい木目の「福こづち」を
一つひとつ真心を込めて手造り

 
 縁結びの神社として、有名な島根県の出雲大社。本殿に鎮座するご祭神の大国主大神(おおくにぬしのおおかみ)は国造りの逸話で知られ、広く「だいこくさま」として慕われています。「だいこくさま」が、お持ちになっているのが「打ち出の小槌(こづち)」です。日本の昔話『一寸法師』などにも登場し、打つようなしぐさで振ると、好きなものが出てきたり、夢が現実になったりする伝説の宝物とされています。
 出雲大社の参道では「だいこくさま」ゆかりのお土産として、欅(ケヤキ)でつくられた「福こづち」が販売され、昨年、民放キー局の人気番組で紹介されたことから注目が集まっています。

 
 その特徴は、美しい木目が歳月を経るごとに深みを増すこと。木目と色艶はすべて異なり、一つとして同じものはありません。どれも、世界に1つだけです。また、温かな木の手触りと滑らかな質感、ころんとしたふくよかなフォルムも特徴です。さらに、ケヤキの一番内側の年輪が、ちょうど小槌の玉の中心になっています。真ん中から輪がいくつも広がる木目は、まるで幸運が広がっていくかのようで、おめでたい「末広がり」を連想させます。
 こんな貴重な縁起物を提供しているのは、島根県出雲市大社町の「大社木工」。本社は出雲大社から車で5分ほど、まさに縁結びの神様のお膝元です。

 
「木の年輪を活かした小槌をつくっているのは、全国でも当社だけではないでしょうか。真心を込めて、一つひとつ手造りしております」と語る4代目・尾添大祐さん。
「福こづち」は職人の手による逸品として、「島根県ふるさと伝統工芸品」にも指定されています。出雲大社のお土産だけでなく、贈答品として長寿のお祝いや新築のお祝いなどに大変喜ばれ、会社の取引先への贈りものにも重宝されています。

 

出雲大社の大遷宮で
一躍注目された招福小物は
電柱の製造技術から生まれた

 
 大社木工は、電柱の木製の腕木を製造する会社として昭和22年に創業。ほどなく時代の流れにより、電柱が木製からコンクリート製に移り変わりました。そのため、同社では角材の加工技術を活かし、昭和30年頃から打ち出の小槌をつくるようになりました。
当初は顧客開拓に苦労し、北海道から九州まで各地の神社の参拝土産として営業するなど、地道な企業努力が積み重ねられました。また販路を拡大するため、平成12年頃からインターネット販売をスタートしました。

 
 大きな好機が訪れたのは平成25 年のこと。出雲大社が60年ぶりの大遷宮を迎えて観光客が激増し、それにともない招福小物として注目され、売上個数が大幅に伸びたのです。インターネット販売も首都圏を中心に増え続け、今日では海外まで広がりをみせています。
 現在、工房では最小のキーホルダーサイズから、全長28cmの特大サイズまで9品目がつくられています。

「中国山地を中心に、国内産ケヤキの銘木を使っています。堅くて加工しづらい木質ですが、仕上がりが美しく重量感もあります。木目を玉の中心に持ってくるよう、角材の段階でカットする場所の見当をつけるのが難しいですね」と、材料の保管倉庫と工房を案内してくださった尾添さん。

 
 工房では、ほとんどの工程が手作業で行われていました。角材から玉を切り出す工程は、どんな木目が浮かび上がるか一喜一憂する瞬間です。切り出した玉を研磨機で磨く作業は、力加減によって一部が欠けることもあり、経験を積んだ職人さんが手がけています。キーホルダーサイズもすべて手造りされ、手間を惜しまない作業に驚かされます。検品も厳密に行われ、研磨機のかたわらには不可となったものが相当ありました。平均すると、材料となる角材の2割程度しか商品にならないそうです。

 
 同社では3年前から、お客様からの要望に応えて純金箔製「福こづち」の販売を始めました。木目も活かされた落ち着きのある仕上がりは好評で、これまでに国内だけでなくシンガポールや台湾への提供もあったそうです。
 幸運をつかむには、「運」をつくりだす行動や態度が必要とされます。まず、出雲大社ゆかりの「福こづち」を手にして振ってみませんか。予想外の偶然が起きて、幸運が舞い込んだり、願いが叶ったり・・・・。“幸せ”を招くかもしれません。

 
【アクセスについて】
●株式会社 大社木工へのアクセス/出雲大社前駅から車で約6分
●島根県出雲市大社町中荒木2730-1
【WEBサイト】株式会社 大社木工