探県記 Vol.143

淀江傘

(2019年7月)

YODOE GASA

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日本の伝統文化を現代に受け継ぐ
その実用美にグーグルも注目!
71軒の傘屋が軒を連ねていた淀江傘

 
山陰には、実用的な美しさと機能性を兼ね備えた、すばらしい伝統工芸品が受け継がれています。そのうちの一つが、江戸時代から伝承されている鳥取県米子市の「淀江傘」。独自の美しい糸飾りは他に類がないとされ、近年、その技と美が世界から注目されています。

 
大企業Google社は『Made in Japan 日本の匠(淀江傘)』というサイトで、日本を代表する全国の工芸作品をデジタル展示していますが、その中でも淀江傘が紹介されています。2年前には、ドイツの光学機器製造会社カールツァイス社の取材クルーが来日し、製作工程の撮影が行われました。また、今年5月に中国・大連の「アカシア祭り」で紹介されたところ、会場に記念撮影を希望する来場者が殺到したそうです。

 
米子市淀江町にある工房「和傘伝承館」を訪ねてみました。「淀江傘伝承の会」の5代目会長・山本絵美子さんが出迎えてくださり、歴史の軌跡などを丁寧に説明してくださいました。淀江傘が起こったのは、今から約200年前。文政4年(1821)、伯耆国倉吉から淀江に移り住んだ倉吉屋周蔵が、傘屋を開いたことが始まりとされています。淀江は良質な真竹の産地で、節と節の間が長い真竹は美しい傘をつくるのに最適とされています。さらに近くの海岸には、かつて広い砂浜があり、1万本以上の和傘を一度に干すことができました。

 
また、鳥取県青谷町の因州和紙が入手でき、傘紙にも困りませんでした。これらの条件があったことから、淀江は和傘の一大産地となりました。大正時代には71軒の傘屋が軒を並べ、年間17万本を生産。西日本をはじめ関東や東北など、全国32県に出荷していました。戦後の傘不足の折には、なんと年間50万本も生産されたそうです。

 
最盛期には京都、岐阜、金沢と並ぶ「和傘の四大産地」として名を馳せた淀江。ところが、その繁栄にかげりが見られるようになります。時代の流れで安くて軽い洋傘が出回り、昭和中頃から廃業する傘屋が増え始めたのです。昭和59年(1984)、最後の1軒も店主さんが高齢だったことから閉店。淀江傘の歴史は静かに幕を閉じました。しかし、「200年の伝統文化を絶やしてはならない」と、すぐに地元の有志が立ち上がります。翌年、「淀江傘伝承の会」が発足。以降、昔と変わらぬ和傘の伝統技術を綿々と受け継ぎ、現在に至っています。

 

おめでたい「梅」「亀」の意匠と
みやびな糸飾りに込められた想い
蛇の目傘が今に伝える匠のこころ

 
「和傘伝承館」では蛇の目傘、番傘、踊り傘、裾黒傘、ミニ傘などを、6名の職人さんで製作しています。傘づくりは、まず真竹の切り出しから。「竹を切るのは冬至のころ。人間と同じように竹も寒いと身が締まり、害虫がつきにくいんですよ。太いものを選別して一年分を伐採し、倉庫で乾燥させてから作業にかかります」と、傘づくり23年の山本会長。作業をする工房では、古い道具も大切に使われています。真竹を割ったり、糸を通す穴を開けたりする機械は大正時代に製造されたもの。日々の手入れと修理をおこたらず百年あまり、今も現役として活躍していました。

 

 
淀江傘には、いくつかの特色があります。その最たるものが骨太で長持ちすること。山陰といえば雨、風、雪。厳しい自然に耐える強度が必要なため、京都や岐阜の和傘より骨が太いのが自慢です。骨数も多く、通常サイズの蛇の目傘なら親骨50本、小骨50本、合わせて100本骨の頑丈なつくりとなっています。また蛇の目傘には小骨の部分に、色とりどりの絹糸で繊細な飾りが施されています。これは、桔梗の花びらを模した「本桔梗の糸飾り」と呼ばれる淀江傘だけの装飾で、手間と時間がかかるもの。雨の日が楽しくなる華やかさがあります。

 
さらに、女傘は赤色で「梅型」、男傘は黒色で「亀甲型」の文様を表すのも淀江傘の特徴です。鳥取県西部では結婚式の結納品に、蛇の目傘と桐の下駄をセットにして贈る習慣がありました。寒い冬にいち早く花を咲かす「梅」は、花嫁のよろこび。「鶴は千年亀は万年」にあやかり、「亀」は花婿の長寿。そんな願いを込めて、意匠に用いるようになったそうです。

 
「1本の和傘を仕上げるまでに、70ほどの工程があります。どの工程も大事に、一つひとつの技を合わせていく。そこに淀江傘らしさが生まれます」と語る山本会長。職人さんの真心が伝わる伝統工芸品として、長年愛用している方も少なくなく、現在は注文を受けてから納品まで半年〜1年待ち。世界の企業から注目されるのも納得です。

 
【アクセスについて】
●和傘伝承館へのアクセス/JR淀江駅から徒歩で約3分
●鳥取県米子市淀江町淀江796
【WEBサイト】米子市