探県記 Vol.144

ギアファーム

(2019年8月)

GEAR FARM

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  • 木内吾平キャプテン

幼い頃に遊んだ場所をなくしたくない
一人の若者の想いから生まれたぶどう園
心温まる物語を秘めた「星のぶどう」

 
ぶどうと言えば、お馴染みのデラウェア。島根県はハウス栽培のデラウェアで、日本有数の生産量を誇っています。また、県のオリジナルぶどう「神紅(しんく)」を開発するなど、ぶどう栽培の振興に取り組まれています。

 
そんな島根県で、いま注目されているのが「GEAR FARM(ギアファーム)」。今年29歳になる星野和志さんと星野さんのおばあさま、お二人で営んでいる小さなぶどう農園です。この農園のぶどうは形がよく、ハリがあって色はつやつや、大粒でたいへん甘い種なしぶどうです。現在はシャインマスカット、デラウェア、ピオーネ、クイーンニーナの4品種を栽培。星野さんの名前から「星のぶどう」というブランドネームが付けられ、主に東京などの関東方面へ産地直送されています。

 
「星のぶどう」は、贈答品として大変喜ばれています。専用のギフトボックスはブルーグレーの落ちついた色で、農園のロゴマークが上品に箔押しされています。上箱を開けると立派なぶどうと一緒に、星野さんの想いや農園の一年をほのぼのと描いたリーフレットも入っています。「ただ作って売るだけでなく、農業の魅力や楽しさを伝えたくて。人と人をつなぎ、食べることで心が豊かになってもらえたら。そんな想いを込めて同封しています」と語る星野さん。ギフトで届いたぶどうのおいしさと共に、心温まるリーフレットを読んで注文してくる人も多いそうです。

 
ギアファームは、島根県雲南市加茂町の三代(みじろ)地区にあります。1960年代、三代地区は野山を開墾して、ぶどう栽培を始めました。最盛期には約50軒の農家が生産していましたが、今では高齢化や後継者の不足から、8軒ほどになってしまいました。星野さんの祖父母も生産者で、おじいちゃんは農林水産大臣賞など数々の品評会で受賞に輝く、ぶどう名人でした。

 
幼いころから、祖父母の働く姿を見て育った星野さん。お手伝いをしたり、遊んだり、農園には思い出がいっぱい詰まっています。そんな自分が生まれ育った思い出の場所がなくなるのは見たくない、そんな思いから農園を受け継ぐことを決心。一年間、近所のぶどう園の師匠に弟子入りをしました。こうして2017年、ギアファームが誕生。亡きおじいちゃんに代わり、おばあちゃんと二人三脚でのぶどう栽培がスタートしたのです。

 

農園のぶどう棚が低いのは
おばあちゃんの手が届きやすいから
家族の思いやりから生まれるおいしさ

 
星野さんは子どものときから農業に興味を持ち、農業高校から農業大学校へと進学。卒業後は地元の農事組合法人「槻之屋(つきのや)ヒーリング」に就職し、野菜担当として5年間働きました。10代から農業一筋に歩んできた経験と勘は、ぶどう栽培にも活かされています。

 
「野菜と同じように土を大切にしています。秋の収穫が終わると土を掘り起こし、雑草の堆肥をたっぷり混ぜます。そうすると草を分解する微生物が集まって、土がふかふかになります。ぶどうの木が根を伸ばすことができると、土の養分や水分をしっかり吸ってくれます。今、おいしいぶどうになるのは長年、祖父母が土の手入れをしてくれていたからなんです」
堆肥づくりには牛糞を用いない、三代地区の昔ながらの製法を継承。斐伊川の肥沃な河川敷から伐採された野草、近所の山々の落ち葉、地元の米農家から頂いた米ぬかなど、自然の恵みが使われています。また、散水には農園の横を流れる、ホタルが舞う川の水が利用されています。

 
「初夏に房の軸が8cmほどになったら、いらない粒を落とす作業をします。一粒ずつチェックして間引くのは大変ですが、丁寧に見て判断しています。軸が20cmほどに育つまで、この作業を3回くらい繰り返します」。これは摘粒(てきりゅう)と呼ばれる技術で、きれいな房に仕上げるために行われます。ぶどう棚の数千房をすべて摘粒するのは、気が遠くなるようなこと。それでも「思った通りの形に仕上がると嬉しい」と、やりがいのある仕事です。

 
さらに粒が大きくなる時期には、内向きの粒をきれいに外向きに整えます。それが終わる7月頃、袋かけをして虫や汚れから守り、じっくりと糖度18度以上に熟成させてから出荷となります。土づくりから出荷まで、手のかかることばかり。案内してもらった農園に甘い香りが漂い、驚くほど上質なぶどうが実っていたのは、まるで我が子のように愛情を注いで育てたからにほかなりません。

 
農園のぶどう棚は低く、長身の星野さんはほとんど中腰でした。その理由を聞くと、「おばあちゃんの手が届きやすい高さなんですよ」とにっこり。お二人が丹精込めたぶどうを食べると、しあわせな気分になります。それは、思いやりの味。一粒一粒、やさしくきらめく星のようなぶどうが、この秋も実っています。

 
【アクセスについて】
●GEAR FARMへのアクセス/JR加茂中駅から車で約6分
●島根県雲南市加茂町三代1234
【WEBサイト】GEAR FARM
 
 

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