探県記 Vol.147

奥出雲薔薇園

(2019年11月)

OKUIZUMO BARAEN

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女性の気持ちを優雅にする
ロマンチックなバラを無農薬で栽培
神話の郷、奥出雲の薔薇園

 
「花の女王」とも呼ばれ、古くから美を象徴する花として、世界中の女性から愛されているバラ。そんなバラの品種開発と栽培を専門とするのが、島根県大田市にある「奥出雲薔薇園」です。同社は全国でも珍しい産業型薔薇園で、加工を目的とする食用の生花を無農薬で栽培しています。

 
独自に開発したブランド薔薇「さ姫」の花びらは、そのまま食べることができ、東京周辺の高級レストランやホテルではサラダなどの食材に重宝されています。食材にこだわるシェフが口コミで知って、全国から来園することもあり、実は3年前に三重県で開催された伊勢志摩サミットの食事にも使われたそうです。

 
園内の作業場では、花びらからローズウォーター、ローズエキスといった加工用の原料も生産されています。無農薬栽培で安全・安心なことから、食品、化粧品、介護医療、エステなど様々な分野から注文を受け、北海道から九州まで全国へ提供しています。

 
「さ姫は芳醇な香りと深い赤色が特徴です。これだけ香りがよく、赤い色素を有したバラは世界にもほとんどないと思います」と語るのは社長の福間厚さん。この特性を活かした多彩な商品が、提携する企業から誕生しています。

 
例えば、「スパークリングローズ」はバラのサイダー。無着色・無香料なのに鮮やかな色に驚かされます。ひと口飲むと華やかなバラの香りが広がり、また感動です。「ローズジャム」は、地元である大田市産の完熟梅をベースに、香り豊かな花びらを加えたもの。このジャムにチーズを合わせてワインとマリアージュしたり、紅茶に入れたり、ジビエ料理のソースに使ったり。ほんの少し加えるだけで、ワンランクアップした優雅な一品に早変わりです。ほかにはシロップ、キャンディ、ブレスケアカプセル、ソルト、口紅などがラインアップ。

 
「さ姫」の香りと赤色は付加価値が高く、ギフト商品としても女性に大変人気があります。これら商品の一部は、奥出雲薔薇園の事務所に来訪するか、同社のネット販売から購入することが可能です。

 

10年かけた栽培技術により
奥出雲だけに咲く「さ姫」
その可能性は限りない

 
「心を豊かにする農業」を信条とする福間さんは東京農大を卒業後、出身地の大田市にUターン。東京の銀座をイメージした農業を観点に、マーケティングを行って薔薇の栽培に取り組みました。新品種の「さ姫」は、約10年の歳月をかけて栽培技術を確立。今では、世界でも奥出雲薔薇園でしか育たない貴重なバラとなりました。「自然が相手なので、去年やったことが通用するわけではありません。毎年、気候の状況を判断しながら試行錯誤しています」と現在も栽培の苦労は尽きることがありません。

 
独自の栽培ノウハウの一つに、有機肥料の配合があります。鶏糞、米ぬかなどのほか、お米も配合しているそうです。「土中の微生物が肥料を分解することで、バラの根は栄養を吸うことができます。そのため微生物が好きな甘みの強いお米を作って、その粉末を投与することで土中を活性化させています」。福間さんが自家栽培する甘いお米の栄養を吸った花びらは、糖度が14度前後。なんと、フルーツのメロンと同じくらいです。

 
そんな「さ姫」は、毎年5月〜11月頃が収穫時期。長期間に渡って可能なのは、土づくりや肥料のやり方など、栽培管理が行き届いているからにほかなりません。収穫は、香りが一番良い早朝から午前10時頃までの間に、一つひとつ手摘みで行われます。収穫後は作業場で花芯をやさしく抜き、花びらにしてから選別します。香りや色、形の良い大きめの花びらは生食用生花として、その日のうちに出荷。残りはさらに厳選し、天日乾燥の「薔薇の紅茶」やローズパウダーに。また、煮沸して色素エキスが抽出されたりします。

 
原料を供給する企業として、安定供給は大きな使命です。そこで大雨など自然災害のリスクを避けるため、奥出雲を中心に10カ所ほどに薔薇園は分散されています。もし、低地が水浸しになったら、高地から収穫するためです。また、薔薇園ごとに品質を少しずつ変えて、もっと良いバラを育てるための調査研究も行われています。現在、総面積5haに約3万本が植栽され、年間4トンの花びらを収穫。このうち7割を出荷。残り3割は研究と新規事業のために確保されています。

 
「アメリカやヨーロッパからの問い合わせもあり、栽培量は不足気味です。でも、品質管理のために拡大はしません。それより、さらに香りと色を極める研究を続け、お客様に貢献していきたい。古来、バラは薬草でした。健康に役立つ使い方など、ともに夢を語れるビジネスパートナーがいれば連携もあるかと思います」と抱負を語る福間さん。

 
実際、「さ姫」の赤色をさらに濃くした、黒紅色のバラの開発に成功。その色素を愛犬などペットの染毛に応用できないか、京都繊維大学との共同研究が進められています。また、バラの果実ローズヒップを使った滋養強壮酒、犬や猫の体臭を軽減するペットフードなどの開発も思案中だそうです。出雲神話のふるさとに咲く華麗なバラが、暮らしを豊かに彩る新しい神話を語り始めています。

 
 
【アクセスについて】
●奥出雲薔薇園へのアクセス/JR大田市駅から徒歩で約12分
●島根県大田市長久町長久ロ411-14
【WEBサイト】奥出雲薔薇園