島根県松江市からの依頼を受け、2006年より続けている『小泉八雲・朗読のしらべ(「夕べ」改め)』も11年が過ぎた。佐野史郎の朗読、山本恭司のギターによる朗読LIVEに加え、小泉八雲の曾孫であり民俗学者の小泉凡さんの講演により、小泉八雲〜ラフカディオ・ハーン〜の世界をさらに深く味わい、ご理解いただけるようにと毎回様々な作品をお届けしている。
松江はハーンが明治23年(1890)に来日してすぐに英語教師として赴任した町。わずか1年3ヶ月ほどの松江での暮らしだったが、この地で妻セツと出会い、その後子宝にも恵まれて幸せな晩年を日本で過ごした。小泉八雲は『知られぬ日本の面影』の中で山陰各地のことを数多く綴っている。怪談はもちろん、出雲大社、加賀の潜戸、海水浴で訪れた鳥取の八橋の叙景など、読めば明治時代へとタイムスリップするかのようだ。横浜から松江に向かう途中、津山から中国山地を越え、下市(現・西伯郡大山町)の妙元寺で初めて観た盆踊りの描写は殊に圧巻だ。小泉八雲の言葉を携え、ハーンゆかりの山陰路を訪れてみてはいかがだろうか?現代人が失ってしまった感覚を取り戻せるかもしれない。
山陰いいもの探県隊 隊員
1975年、劇団シェイクスピア・シアター(出口典雄主宰)の創設に参加。
1980年、劇団状況劇場入団(唐十郎主宰)。退団後1986年、林海象監督「夢みるように眠りたい」で映画主演デビュー。1992年、ドラマ「ずっとあなたが好きだった」が視聴率30%を超える大ヒット。マザコン男、“冬彦”が当たり役となる。2007年より松江南高校のクラスメイトであり、ロックギタリストの山本恭司と「小泉八雲 朗読のしらべ」をスタート。日本全国各地での公演のほか、ギリシャ、アイルランドでも上演。
鳥取県境港の写真家、植田正治の写真を用いたショートフィルム「つゆのひとしずく」(東映アニメーション/2006)を監督、写真展「あなたがいるから、ぼくがいる」(富士フイルムフォトサロン東京、大阪/2008、島根県立美術館/2010)など写真にも関わり続けている。
ホームページ「橘井堂」はこちら>> http://www.kisseido.co.jp
この仕事をしながら気付いたことがあります。日本の観光業において、フランス人観光客は他の国からくる外国人観光客と比べて「マニアック」であると思われていること。確かにヨーロッパの、特にフランスからの観光客は、有名な観光地だけではなくコアな経験を求めていて、多少行きにくい場所でも行ってしまう強い好奇心があるのです。彼らは外国人観光客が集まるような「ザ・定番」の観光地だけでは満たされません。フランス人観光客が求めているのは、人工的に、商業的に出来上がった観光地の経験だけでなはく「リアル」な日本経験なのです。
私ももちろん、マニアックです。島根県の「定番」観光地も大好きで、10回、20回と、仕事でもプライベートでも飽きることなく訪れています。それでも、訪れる数々の場所で一番印象に残るのは「知られていない」、観光客が少ない場所です。島根県にはそういった魅力的な場所が沢山あります。例えば「明々庵」。松江城は島根県の中でも最高の観光地ですが、明々庵はその近くにある比較的いつも観光客の少ないスポットです。それと同じように、足立美術館の庭園や由志園もその完璧な美しさに、毎度驚き、感動しますが、松江の塩見縄手沿いにある小泉八雲旧居の庭園を眺めると、規模は小さくても、感動の深さでは劣ることはありません。
他にも沢山あります。松江の袖師窯や安部榮四郎記念館、美保神社の朝の巫女舞、出雲大社の近くにある北島国造館の滝、安来の清水寺や鍛冶工房弘光、大田市の温泉津温泉にある龍御前神社の夜神楽や熊谷家住宅、津和野の永明寺や堀庭園等・・・。島根県出身の方と島根の好きな場所について会話すると、私の口から出る数々のスポットに驚く方が多いです。きっと皆んなが期待している定番スポットでなく、「マニアック」なスポットだからでしょう。 小泉八雲は欧米人の読者のために本を書いていました。彼の文学を日本人が読むと、日本の文化を新鮮な目で考え直すことが出来たと思います。それと同様に、私のようなフランス人の「マニアック」な視点は、日本の「本物」の魅力を再発見するきっかけにもなり得ることでしょう。
山陰いいもの探県隊 隊員
松江市役所産業観光部
国際観光課国際交流員(フランス)
フランス出身。ストラスブール大学で日本学(学士号)と日本史(修士号)を勉強。2013年-2014年に早稲田大学で交換留学、2014年にJETプログラムを合格し、松江に着任。趣味・特技はハイキング・読書・アナログ写真。外国人の観光客が増えるように、山陰のいいものを欧米の方に一生懸命PRしたいと思います!