「鉄は国家なり」と表現された時代がありましたが、特に産業革命以降は産業の中核をなす材料であり、鉄の生産量は国力の指標になりました。個人的には視点を更に高くして、「鉄は文明なり」と形容してもいいのではないかとも思います。それくらいに鉄は私達の文明をささえてきました。道具やインフラなど目に見えるカタチのものはもちろんですが、鉄イオンという目には見えないカタチの元素がヒトはもちろん、地球上の生き物全ての命を司(つかさど)ってきたことも認識しておきたいものです。
 話が大きくなりましたが、山陰の歴史を辿ると、その中心に“たたら(製鉄)”があることに気がつきます。たたらとのつながりを手繰(たぐ)っていくと、工業はもとより林業、農業、畜産業、水産業、商業(流通、サービス)、交流産業など全ての項目がつながり、地域の経済、文化、政治、信仰、人々の生きざまなど歴史を形成してきたことがわかります。さらに、私が住む大地(弓ヶ浜半島や出雲平野など大部分の平野部)もたたらの砂鉄採取の際に出た廃砂が流されて形成された訳で、たたらの恩恵なしには私自身が存在していなかったのかもしれません。
 さらに歴史を遡(さかのぼ)ると、日本形成の神話にも至ります。約1300年前に編纂された「古事記」では、スサノウノミコトが鳥上峰(とりかみのみね/現在の船通山(せんつうざん) ※日野川・斐伊川の源流域の山で、たたらの中心エリア)の麓でヤマタノオロチを退治し、その尾から取り出した剣が皇位を象徴する『三種の神器』のひとつ「天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ/草薙剣(くさなぎのつるぎ))」ということ。この剣が鉄かどうか不明ではありますが、その場所や物語から類推すると鉄の可能性も。だとしたら、まさに神代よりたたらが私達の歴史の中心にあったのかもしれない。ちなみに鉄は古くは「鐵」と表記していました。この字を分解すると「金(属)の王なる哉」となります。

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山陰いいもの探県隊 隊員
とっとりコンベンションビューロー
理事長

鳥取県米子市在住。大山が見えるエリアはひとつの文化圏として大山王国と名付け、この圏域のファンづくりの事業を取り組む。近年は、「不思議と素敵“大山ワンダー”」というテーマで、圏域の魅力を深掘りする情報発信中。