明治5年（1872年）創業の大谷酒造。ＪＲ浦安駅から徒歩15分。鳥取県の中央に位置する琴浦（ことうら）の町の中に酒蔵がある。仕込み水は、大山（だいせん）の伏流水。愛鳥家だった初代が「鷹が空を舞う雄姿」をイメージする辛口でキレの良い酒を好み、「鷹勇（たかいさみ）」と命名。「純米吟醸なかだれ」は、出雲杜氏の酒造りを継承し、山田錦と玉栄を絶妙なバランスでミックス。さらに、お酒を搾る時に最初に出てくる「あらばしり」の後の、香りと味のバランスが一番良い「中取り」の部分を取りためて詰めた、まさに、いいところ取りのお酒。燗でも冷でも芳醇な辛口が味わえる。「日本酒にはアミノ酸が豊富。お肌に潤いを与えますよ」と笑顔の大谷修子社長。そのお肌を見れば納得だ。

和紙産業が盛んな青谷（あおや）町。水資源が豊かなこの地に、明治20年（1887年）に創業した山根酒造場。農薬の影響を受けず、管理が徹底されている地元の山の湧水を仕込み水として使用している。米へのこだわりは全国でもトップクラス。契約農家は、蔵元が求める米を作るべく情熱を注ぐ。「日置桜（ひおきざくら） 純米酒」は最もスタンダードで、木に例えれば幹となる酒。それだけに毎年工夫を重ねている。「優等生でありながら、やんちゃなところもある。勇気をもってお試し下さい。」と山根正紀社長。他の酒に比べて色が濃く、しっかりとした旨味。お燗をすれば更に心に沁みる。この味を受け止めたら是非その先の枝葉となる酒へ。日本酒の奥深さに気付かされることだろう。

創業文政11年（1828年）の中川酒造。ＪＲ鳥取駅から車で約8分。土蔵風な建物が、江戸時代から続いてきた酒蔵の誇りを感じさせる。仕込み水は200メートル東にある天神山の麓の弱軟水の井戸水。「鳥取にしかない水と米で真の地酒を」と、中川盛雄社長は絶えていた鳥取の酒米「強力（ごうりき）」の復活を求め、鳥取大学に保管されていたほんの一握りの種籾を入手。契約農家の協力を得て平成2年に地酒「強力」復活を果たした。鳥取のオリジナル米として守るため「強力を育む会」を結成。県内の8蔵が加盟し「強力」のお酒を造っている。いいものを独占するのでなく、皆で高めて守っていく。その姿勢が「いなば鶴」に溶け込み優美な味を奏でる。

山に囲まれた杉の町、智頭（ちず）町。創業安政6年（1859年）の諏訪（すわ）酒造は、江戸時代の街道の名残を感じる風情ある町並にある。蔵内の井戸から汲み上げた仕込み水はかなりの軟水。山の頂から井戸まで約100年かけて辿り着く水。「土地の記憶を持っている水が、お酒の個性を支えている」と話す東田雅彦社長。智頭町の山を彩るドウダンツツジを意味する「満天星（まんてんせい）」は、山田錦で力強い麹をつくり、玉栄で野性味をプラス。やわらかい酸とやさしい喉越しから、この土地の水の特徴を感じて欲しい。お燗すると酸が引き立ち洋風な料理とも合う。料理と合わせて楽しめるよう、香りよりも味を重視した酒造り。酒蔵には3年熟成の「満天星」もあるので比べてみるのも面白い。