標高1729mの大山は、約100万年前から1万数千年前の火山活動で、現在の姿に近い山容が誕生しています。その姿は、「伯耆富士(ほうきふじ)」「出雲富士(いずもふじ)」と形容される西側から眺める優しい姿と、北壁・南壁等の変化に富んだダイナミックな姿の、二面性を持ち合わせています。
大山の標高800mから1300mの中腹ぐるりと広がるのが、西日本最大のブナの森。その広さは、世界自然遺産に登録される白神山地(青森県・秋田県)に次ぐ規模といわれています。
落葉広葉樹のブナの森は、針葉樹など他の森林と比べて格段に保水力が高く、「緑のダム」あるいは「緑の水がめ」と呼ばれるほど。樹齢200年くらいの大木になると、1本あたり年間で約8トンの地下水を蓄えるのだといわれています。ブナの森には落ち葉や微生物などによって分解された腐葉土が大量に堆積。そこにたっぷりと降水を含むため、森の地面はスポンジのように「ふわふわしている」と表現されます。
腐葉土に蓄えられた水は大山ならではの火成岩(安山岩)などで形成される地層に、ゆっくりと時間をかけて浸透。約100年ともいわれる歳月に、じっくりとろ過され磨き上げられて、ミネラル分を適度に含んだ、美しい軟水になるのです。
年間降水量については、日本の平均が約1700~1800㎜といわれるなか、鳥取県がほぼ平均量であるのに対し、降雪も多い大山は3000㎜超という量。良質な天然水が豊富に生まれる理由がわかります。そして、大手飲料水メーカー2社がミネラルウォーター工場の地に選んでいるのも納得です。
また、大山の裾野に位置する米子市は、全国的にも水道水がおいしいと評価されています。その理由は、地下90mを流れる天然水を、井戸でくみ上げて水道水に利用しているから。一般的に設けられる浄水場が必要ないという特徴が全国的にも珍しいようです。
大山のブナ林に蓄えられた水が、山裾を伝って田畑を潤し、海にミネラルを運ぶと良質な海藻が育ち、そして海の食物連鎖を支える植物性プランクトンが増殖します。天然水の通った道には、二十世紀梨やブロッコリー、白ネギなどの農作物が、大山どりや大山黒牛などの畜産物が、白イカ・アジ・サザエなどの海産物が、それぞれ高品質に育ちます。その全てが大山の造る天然水の恩恵なのです。
こうして、海へとたどり着いた大山の水は、やがて蒸発して雲となり雨を降らせて、また大山へと降りしきる──。自然の完璧なサイクルの過程で、私たちは恩恵を受けている──。今も昔も、その関係性は何ら変わることはありません。大山は古くから神の山と崇められ、何人たりと入山を禁じるほど先人たちから大切に守り続けられてきた命の源なのです。