1983年(昭和58年)、三瓶山の北のふもとの小豆原で、奇妙な木が出現しました。水田の工事中に地中から現れた巨大な立木。しかし、それが特別な存在であることに気づく人はいませんでした。地中に埋もれた木は、地元では珍しいものではなかったのです。けれど、7年後に工事中に写真を見た地元の火山研究者、松井整司氏は直感しました。「これはすごい発見かも知れない。」数年後に教員を定年退職した松井氏は自費を投じて調査を開始しました。
1998年(平成10年)冬、松井氏の調査をもとに島根県が発掘調査を開始すると、立ち並ぶ巨木群が出現します。それは、縄文時代後期にあたる約4千年前に三瓶山の噴火で埋もれた森が、永い眠りから覚めた瞬間でした。根元まであらわになった巨木は大きなもので根回りが約10mにも達し、生きていたときの樹高は約50mと推定されています。
火山活動で封印された原始の森を現代に蘇らせた縄文の森のミュージアム。
地底へと下りる螺旋階段は奇跡の森への入口。
推定樹高が約50mにも達する根回り約10mの巨木が
4千年前へと誘う圧倒的な異空間。
島根県大田市三瓶町多根口58-2
アクセス:JR大田市駅より車で20分
お問い合わせ:0854-86-9500
三瓶小豆原埋没林公園
発見された埋没林は、私たちに様々な情報を与えてくれました。木々の根元に完全な形で残っていた落ち葉と土壌の中からは、スジコガネやコメツキムシの仲間とともに動物の糞に集まる昆虫も多数発見され、多くのほ乳類が生息していたことを物語ります。樹種に関しては、巨木のほとんどがスギであり、トチノキ、ケヤキ、カシの仲間などが少し混じる森だったことがわかり、現在の植生とは異なることが判明。この違いは、気候変化によるものか、あるいは人が森林を利用した結果なのか。原始の森を探ることで、現在の自然をより詳しく理解できる可能性が出てきています。
では、なぜ、小豆原の巨木群は火砕流の直撃を受けながら、炭化せずに残ったのか──その謎の答えを地層から推測すると、火砕流が堆積したとき、小豆原は水が存在する土砂ダムの状態になっていたため、瞬時に火砕流が冷やされたのでは──と推測できるのです。これはひとつの仮説ですが、幸運な偶然が重なって、奇跡を起こしたことに間違いはないと思うのです。
こうして、世界的にも類を見ないほどのスケールで出現した奇跡の森は、発掘したそのままの状態で展示されることが決定。2003年(平成15年)、「三瓶小豆原埋没林公園」として、深さ13.5mの地下展示室で公開が始まりました。