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本誌2P冒頭に一部誤りがございました。
誤:1983年(昭和53年)
正:1983年(昭和58年)
ご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。
2020spring 春 三瓶山の履歴書(プロフィール)” width=

島根県のほぼ中央にそびえる三瓶山。
古くは「出雲国風土記」の冒頭を飾る「国引き神話」に
「佐比売山(さひめやま)」の名で登場するその山は、
自然が豊かで高原風景が美しく、
温泉が湧き登山やキャンプが楽しめる──
そんなのどかなイメージだけだとしたら、
それはとても、もったいない──。

眠りから覚めた縄文の森

 1983年(昭和58年)、三瓶山の北のふもとの小豆原で、奇妙な木が出現しました。水田の工事中に地中から現れた巨大な立木。しかし、それが特別な存在であることに気づく人はいませんでした。地中に埋もれた木は、地元では珍しいものではなかったのです。けれど、7年後に工事中に写真を見た地元の火山研究者、松井整司氏は直感しました。「これはすごい発見かも知れない。」数年後に教員を定年退職した松井氏は自費を投じて調査を開始しました。
 1998年(平成10年)冬、松井氏の調査をもとに島根県が発掘調査を開始すると、立ち並ぶ巨木群が出現します。それは、縄文時代後期にあたる約4千年前に三瓶山の噴火で埋もれた森が、永い眠りから覚めた瞬間でした。根元まであらわになった巨木は大きなもので根回りが約10mにも達し、生きていたときの樹高は約50mと推定されています。

埋没林が教えてくれること。

三瓶小豆原埋没林公園
三瓶小豆原埋没林公園
火山活動で封印された原始の森を現代に蘇らせた縄文の森のミュージアム。
地底へと下りる螺旋階段は奇跡の森への入口。
推定樹高が約50mにも達する根回り約10mの巨木が
4千年前へと誘う圧倒的な異空間。
島根県大田市三瓶町多根口58-2
アクセス:JR大田市駅より車で20分
お問い合わせ:0854-86-9500 三瓶小豆原埋没林公園

 発見された埋没林は、私たちに様々な情報を与えてくれました。木々の根元に完全な形で残っていた落ち葉と土壌の中からは、スジコガネやコメツキムシの仲間とともに動物の糞に集まる昆虫も多数発見され、多くのほ乳類が生息していたことを物語ります。樹種に関しては、巨木のほとんどがスギであり、トチノキ、ケヤキ、カシの仲間などが少し混じる森だったことがわかり、現在の植生とは異なることが判明。この違いは、気候変化によるものか、あるいは人が森林を利用した結果なのか。原始の森を探ることで、現在の自然をより詳しく理解できる可能性が出てきています。

 では、なぜ、小豆原の巨木群は火砕流の直撃を受けながら、炭化せずに残ったのか──その謎の答えを地層から推測すると、火砕流が堆積したとき、小豆原は水が存在する土砂ダムの状態になっていたため、瞬時に火砕流が冷やされたのでは──と推測できるのです。これはひとつの仮説ですが、幸運な偶然が重なって、奇跡を起こしたことに間違いはないと思うのです。
 こうして、世界的にも類を見ないほどのスケールで出現した奇跡の森は、発掘したそのままの状態で展示されることが決定。2003年(平成15年)、「三瓶小豆原埋没林公園」として、深さ13.5mの地下展示室で公開が始まりました。

Special Presenter

カルデラ内に誕生した溶岩ドーム群。

物部神社
石見国の一宮。島根県では出雲大社に次ぐ大規模な本殿。6世紀初頭、天皇の勅令により社殿を創建。その後3度消失し、宝暦3年(1753)に再建。高さ16.3mの本殿は春日造として全国一の規模を誇りながら、高床・千木・大棟など随所に出雲地方の影響がみられる。
島根県大田市川合町川合1545
アクセス:JR大田市駅より車で10分
お問い合わせ:0854-82-0644 物部神社

実は、三瓶山とは、噴火口を環状にぐるりと囲んだ6つの峰の総称です。火山活動によって形成された山々は、主峰の男三瓶山(1126m)を筆頭に、女三瓶山(953m)、子三瓶山(961m)、孫三瓶山(903m)、大平山(854m)、日影山(697m)となります。その火山活動は約10万年前に始まり、少なくとも7回の活動期があったと考えられています。現在の三瓶山は、直径約5㎞のカルデラ(凹地)内にある中央火口丘群。6峰のうち最も古い日影山は約1・6万年前に、その他の三瓶山の名の付く4峰は1万年前以降の活動でそれぞれ形成された溶岩ドーム群。そして、溶岩が露出していない大平山だけは、噴出物が堆積した火砕丘と考えられています。幾度も繰り返された火山噴火が、三瓶山の特徴的な地形を作りあげました。

なだらかに広がるその裾野は恵み豊かな楽園になりました。

裾野に広がる緑の草原には、牛たちの姿があります。のどかなこの風景には、火山ならでの地形と地質を利用して暮らしを営んできた人々の歴史がありました。
 三瓶山のふもとは、火山灰が降り積もってできたなだらかな地形。水はけがとても良く、地表を流れる水がない土地は田畑には向きません。けれど、草が生えさえすれば、牛の飼育に向く地形でした。近代化までの時代、牛は重要な労働力。たとえば当時、近隣には、世界にその名を知られた石見銀山がありましたから、必要物資を運ぶための労働力として牛たちは大活躍したのです。こうして、三瓶山のふもとでは数千頭の規模で牛が飼育されるようになり、山裾のほとんどが牧野になったといいます。以降、現在までの数百年間、牛の飼育は続けられています。
 山麓には、石見国の一宮である物部神社をはじめとする社寺が点在し、山頂を仰ぎ見るように鎮座しています。物部神社は当初、裏山を八百山と称して崇め、その後、天皇の勅命によって社殿を創建した神社。そこには、日本に古来から根づいてきた山岳信仰の姿が見えてきます。

石見国にとって令和2年は記念すべきリスタートの年。

 現在大田市では「石見の火山が伝える悠久の歴史」というストーリーを打ち出し、日本遺産の認定を目指しています。
 来る5月31日には、天皇皇后両陛下の御臨席のもと「第71回全国植樹祭しまね2020」が三瓶山北の原で開催されます。悠久の地球の歴史の中で形成された三瓶の風景。人々はその環境を享受し、丁寧な暮らしを営んできました。その成り立ちを知ることは自然と共生し、持続可能な未来を目指す手がかりになるかもしれません。

三瓶自然館サヒメル
三瓶自然館サヒメル
三瓶山を中心に島根県の様々な自然を紹介する博物館。2020年4月16日リニューアルオープン。AR技術による古代生物のリアル解説や、大迫力の音と映像で体感できる火山時空シアターなどを新たに導入。謎の珍獣の全身骨格やニホンアシカの剥製、プラネタリウムや天文台など既存の施設内容と併せてさらに充実。
島根県大田市三瓶町多根1121-8
アクセス:JR大田市駅より車で30分
お問い合わせ:0854-86-0500 サヒメル

三瓶山西の原
三瓶山西の原
ゆるやかなスロープを描く標高460mの山麓・西の原は、牛たちが草を食む牧歌的な風景が印象的。目の前にはレストランや駐車場が完備され、登山・ハイキング・クロスカントリーなどの拠点となっている。毎年3月下旬に行われる野焼きは、牧野管理のために古来から行われている三瓶山の風物詩。

  • グッとくる山陰コラム2020春

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