日本に「星取県」と呼ばれる県があること、ご存じですか?
それは、鳥取県の別称で、全国一星空が美しく見える県と評価されて、
星取県と名告ることを宣言しています。
観光名所を巡り、夜になって飲食が終われば、
ゆったり温泉に入って眠りにつくのが旅の定番なら、
星取県は、ある意味、ここからがクライマックス。
ぜひとも、すっきりと晴れた夜空に目を向けてみてください。
頭上には、生まれて初めて体験するような
圧倒的な星空が広がっているかもしれませんから。
さじアストロパーク
国内屈指の天体望遠鏡や宿泊施設の他、展示・体験コーナー、星や宇宙に関する書籍を集めた図書なども充実し、営業日には天候に関わらず毎日イベント(プラネタリウム、夜間観望会)を実施。ショップでは隕石や宇宙食など珍しいお土産も販売。
鳥取県鳥取市佐治町高山1071-1
アクセス:JR用瀬駅より車で約20分
またはJR鳥取駅から車で約40分
お問い合わ:TEL0858-89-1011
かつて環境省は、1988年度から2012年度までの毎年夏と冬の2回、全国星空継続観察(スターウォッチング・ネットワーク)を実施していました。この観察で、過去10年間20回のうち、鳥取県は計12回「全国一星が見えやすい県」に輝いています。
この結果を受けて、鳥取県は星取県と名告ることを宣言しました。満天の星が手に取るように夜空に広がる星取県では、県内のどの市町村からでも天の川が観察できるという星空環境を誇っています。
星空継続観察における鳥取県の定点観測地は、手つかずに近い自然の森の中に建つ「鳥取市さじアストロパーク」。人工物がほとんど視界に入らない標高約400mの高台に、1994年(平成6年)7月オープンした公開天文台です。国内屈指の103㎝反射望遠鏡やプラネタリウム、太陽望遠鏡に星や宇宙のさまざまな展示物に加えて、コンピュータで天体の自動導入ができる本格的な望遠鏡を完備した宿泊施設を持つ、世界的にも珍しい施設。愛称を「宙の駅」という、鳥取県を象徴するアカデミックで魅力的なスポットです。
鳥取県の人口は約55万人(令和2年10月1日現在)と、全国で一番少ない県。それが、都市部に比べて大気環境が清浄で、空の広さをさえぎる高層ビルや、ネオン・照明などの光害も少ないことにつながっています。つまりそれは、全国一空が広く、全国一暗い夜空だから、全国一星が見えやすい県というわけです。さらに、鳥取県は年間の降水量が多く、空気中のホコリなどを雨が洗い流してくれることも、ひとつの要因となっているようです。 こうして、さまざまな条件がひとつになって生まれた美しい星空環境という財産を、後世まで永く伝え残そうと、2018年(平成30年)4月、「鳥取県星空保全条例」が制定されました。条例の概要は次のとおり。「光害防止に努めること」、「サーチライト等の投光器やレーザーについて、特定の対象物を照らす目的以外での使用を禁止する」、「星空環境や光害防止に関する普及啓発を実施する」というものです。
2020年の今年、ノーベル物理学賞を受賞したのは、宇宙空間に巨大なブラックホールが存在することを証明した英米3人の研究者でした。人類が宇宙についてわかっていることは、全体のほんのわずか数%なんだとか。謎だらけだからこそ、人々は近づきたいと願い魅了されるのでしょうか。
では、そんな宇宙と鳥取県には、星空以外にも不思議な縁があること、ご存じでしょうか。それは、2007年にスタートした、世界初の民間による月面無人探査の国際レース。アメリカ、ドイツ、イタリアなど世界から34チームがエントリーし、当時、世界的に盛り上がりをみせていたこのレースに、日本から唯一挑戦したチームHAKUTO(ハクト)がいたことを覚えている方も多いはず。
このHAKUTOというチーム名は、月にはうさぎがいるという日本古来の伝承と、鳥取県が舞台の神話「因幡の白うさぎ(白兎伝説)」が由来になっています。
そして、チームHAKUTOは、開発したローバー(月面探査機)の実験場に鳥取砂丘を選びました。その理由は、適度な起伏を有する地形や細かい砂の粒子が、国内の砂丘で最も月面に近いから。こうして、3度、HAKUTOのローバーは鳥取砂丘を走行。後に、月に送る実機ローバーに「SORATO(ソラト・宙兎)」と命名しています。
ところが、このレースは、全チームが打ち上げまでに至らず終了を告げられるという残念な結末でした。しかし現在、世界初の民間月面探査プログラム「HAKUTO‐R」がその意志を継承。鳥取砂丘を走った月への夢は確かに続いています。
【C】大山町
【D】大山山頂
そして、今冬の12月は、ちょっとした天体ショーラッシュ。6日には、小惑星探査機「はやぶさ2」がミッションを果たして小惑星リュウグウから地球に帰還予定。14日には、ふたご座流星群の活動が極大になると予想され、21日には木星と土星が最も接近して見え、町中でも肉眼で確認できるほどだといわれています。
冬こそ、星取県へいらっしゃいませんか。鳥取砂丘の砂の感触を確かめながら、月に降り立った自分を想像してみる。満天の星が今にも降り注いできそうな感覚を味わってみる。もしかして、鳥取県は、宇宙を一番身近に感じられる県なのかもしれません。
【E】大山まきばみるくの里
監修
愛媛県松山市のプラネタリウム解説員を経て、鳥取県佐治村(現鳥取市)が建設中であったさじアストロパークの主任研究員として1993年に採用され、天文台建設の準備段階から関わる。天文指導や普及活動、小惑星の捜索などをおこない、同天文指導係長、副所長を経て、2018年より所長。現在は、さじアストロパークを「宙の駅」として商標登録をおこなうなど星空の拠点作りに取り組んでいる。香川県出身。