日本最古の歴史書『古事記(712年)』の中で、高天原から降臨された須佐之男命は、地上で怪物として恐れられていた八岐大蛇を、猛烈に強いお酒「八塩折の酒」を醸して飲ませ泥酔させて、みごと退治に成功します。

この神話の舞台こそ奥出雲、斐伊川の上流にそびえる船通山の麓でしたー。

駅レンタカー営業所のある駅

https://www.ekiren.com

観光・ビジネスに便利。駅から徒歩圏内。山陰にお越しの際は、駅レンタカーのご利用をお待ちしております。

◎松江営業所TEL:0852-23-8880 ◎出雲市営業所TEL:0853-21-8193 ◎米子営業所TEL:0859-34-1140 ◎西日本予約センターTEL:0088-24-4190

国内に現存する風土記の唯一の完本『出雲国風土記(733年)』は、奈良時代に編集された郷土誌のような書物。その中で「神々が集まって酒造りを行い、180日にわたって酒宴を催した」と記されている古い神社があります。それが、酒の古名を冠した「佐香神社」で、別称を「松尾神社」。お酒の神様である松尾様の名のつく神社は、他には京都の松尾大社だけ。現在も1年に1石(180L)、宮司が杜氏を務める酒造りが許されています。

旧暦10月は通常、神無月と呼ばれます。しかし出雲地方だけは、日本中の神様が集まって縁結びや五穀豊穣、諸産業の繁栄などを取り決めるための頂上会議が行われるので、唯一、神在月と呼ばれています。神様たちは会議を終えると、斐伊川の畔に鎮座する「万九千神社(まんくせんじんじゃ)」で最後の酒宴「直会(なおらい)」を催して、その後、諸国へとお帰りになるのが慣わしです。

これらは古くから地元に伝わる神話の一部。当エリアが「日本酒発祥の地」と称えられて、神様とお酒に深い縁のあることが窺えます。 そして、もうちょっと深掘りしてみると面白いことに、たたら製鉄とお酒の深い関わりも見えてくるのです。

佐香神社
佐香神社
島根県出雲市小境町108
万九千神社
万九千神社
島根県出雲市斐川町併川258

たたら製鉄の跡に残されたのは想像以上に美しい棚田でした。

島根県の東部、中国山地の船通山に源を発し、奥出雲から雲南を通って宍道湖に流入する斐伊川は「出雲神話」の舞台であり、良質な砂鉄を採るための「鉄穴流し」に利用された「たたら製鉄」の舞台でもありました。

その理由は、奥出雲の大地の大部分が「風化花崗岩」で構成されていて、その中に約1%の良質な砂鉄が含まれていたことでした。花崗岩は硬いままだと砂鉄を採り出すことが非常に困難ですが、奥出雲の花崗岩はラッキーなことに、割と容易に人力で切り崩せるほどに風化が進行。岩の割れ目部分から豊富な地下水が染み込んで、風化を促進したのではないかと考えられています。

風化花崗岩露頭

風化花崗岩露頭 提供:奥出雲町

島根県の東部、中国山地の船通山に源を発し、奥出雲から雲南を通って宍道湖に流入する斐伊川は「出雲神話」の舞台であり、良質な砂鉄を採るための「鉄穴流し」に利用された「たたら製鉄」の舞台でもありました。

風化花崗岩でできた山を切り崩し、豊富な水で流して比重選鉱。これがいわゆる「鉄穴流し」。この鉄穴流しによって集められた砂鉄を使った製鉄方法が「たたら製鉄」というわけです。江戸時代から明治時代初期にかけて、最盛期を迎えていた奥出雲をはじめとする中国山地では、日本のおよそ8割にもなる大量の鉄を生産していたと伝わります。それはゴールドラッシュならぬ、まさにシルバーラッシュの勢いでした。

鉄穴流し

ここで注目したいのは、シルバーラッシュ時に切り崩された山々の跡地が、荒廃するどころか、豊かで美しい棚田になっているということです。その原点については後半で触れることにしますが、事実、県内産酒米(酒造好適米)の約7割を当エリアで生産。島根の地酒を支える良質な酒米の主産地になっています。

日本の棚田百選/奥出雲町大原新田

標高500m超、面積4.9ha、約40枚を有する大原新田の棚田。1段1段が高く石垣もなく、棚田1枚の平均が1.3aと大区画になっているのが特徴です。

ずっとずっと昔から、持続可能な資源循環型農業を行っていました。

たたら製鉄のために、500年以上にわたって森林を伐採し、山を切り崩し、水路やため池を造ってきた奥出雲地方には、現在、美しい棚田が広がり、ふくよかな地酒が醸され、豊かな食が育てられています。
大規模な森林伐採や掘削が長年行われていた土地が、荒廃することなく なぜ今、こんなにも豊穣なのか!?
不思議に感じたその理由を、ちょっと知りたくなりました。

かつて、たたら製鉄で使う大量の木炭を得るため、森林は大規模に伐採され続けていました。それは無計画にただ伐り倒していたのではなく、資源が枯渇してしまわないように、約30~50年周期の輪伐を繰り返して循環利用。森林の保全•活用がしっかりと考えられていたのです。
こうして、たたら製鉄の終焉後も、緑豊かな森林は守られました。では、鉄穴流しのために造られた水路やため池はどうでしょう。なんと、そのままの姿で再利用されて、「日本の棚田百選」にも選出される美しい棚田へと生まれ変わっていたのです。

しかしその前に、改善すべき点がありました。それは、風化花崗岩は養分をあまり含まず、稲作をするには極めて生産性に乏しい土壌だったからです。そこで先ず取り組んだのが、痩せた土地でも育てやすい蕎麦を栽培して、土壌を徐々に改良することでした。その結果、奥出雲は素朴で味わい深い「出雲蕎麦」の産地となったのです。

土壌を肥やす手段として活用されたのは、鉄の運搬や農耕のために飼育されていた和牛の存在。牛フンを堆肥に利用して、肥沃な土壌へと育てていったのです。
そして当地は元々、最高気温と最低気温の差が大きい環境で、その点は稲作にとても適していましたから、土さえ肥沃になれば良質なお米を育てることができたのです。こうして条件が整えられていった大地は、広大な棚田として再生され、ブランド米「仁多米」が生まれたのです。
さらに、鉄の運搬や農耕用の役牛飼育で培ったノウハウを、肉用牛の飼養管理技術として継承。県を代表する「奥出雲和牛」の産地にもなりました。

駆け足のご紹介でしたが、これだけを知っても、当地にはずっとずっと昔から、SDGsの精神が根付いていたことがわかります。そこには、この地で暮らす人々の創意工夫と粉骨努力、叡智と先見の名、そしてなにより、この大地への誇りと愛情があったのだと思えるのです。

仁多米

長年の堆肥施用で地力を上げた土壌と稲作に適した気候によって、日本を代表するブランド米にまで成長。

出雲蕎麦

蕎麦殻を練り込んだ色の濃い麺は豊かな風味と食感の良さが特徴。3段重ねの「割子」スタイルも個性的。

奥出雲和牛

豊かな自然の中でのびのびと育てられいる奥出雲和牛は、高級黒毛和種牛肉。品評会での受賞歴も多数。

探県記 奥出雲和牛

  

神様に愛された大地で行われている誠実な地酒造りが逞しい

たたら製鉄の跡地である美しい棚田で、美味しいお米が育てられることによって、広く愛される酒蔵がいくつも生まれることになりました。

日本海から吹く冷たい季節風を受けとめる中国山地は、毎年1mを超えるほどの雪が降る豪雪地域。こうして山々には豊富で清らかな水が蓄えられて、お酒造りの大切な仕込み水になっています。
また、昼夜の寒暖差が大きい山間部らしい気候も、お酒造りの環境に最適だったのです。

世界も認める県内屈指の老舗酒蔵

1712年創業、300年以上の歴史を有する県内屈指の老舗蔵「簸上清酒」。社名は奥出雲一帯の古い地名「簸上」に由来しています。ちなみ「簸る」とは、箕(み)という農具で穀物をふるって塵などを除くことを意味しています。

看板酒の銘柄は「七冠馬」で、20世紀最強と誉高い競走馬「シンボリルドルフ」の異名。簸上清酒が競走馬の生産者であるシンボリ牧場と親戚関係にあったことから命名された七冠馬は、飲み飽き•飲み疲れしない食中酒と評判です。

「日本酒発祥の地と伝わる奥出雲で酒を造ることに意味があると思っています。良い酒ができる環境が申し分なく整っているのですから」と誠実に語ってくださった専務の田村浩一郎さん。「七冠馬 特別純米」を海外に紹介し、美食の国フランスで開催された日本酒アワードで金賞を獲得させた立役者です。

「七冠馬 純米吟醸 夏涼みセブン」は、お酒造りに最も適した時期とされる大寒の時期に仕込み、2月初旬に搾ったものを蔵の中で低温生貯蔵させた夏季限定のお酒。春を超えると尖った部分がなくなり、アルコール度数を抑えることで夏らしくスッキリ飲めるようになっているのだそう。

こうした夏季限定の各種お酒の他に、春から夏の熟成期間を経て出荷される秋の「純米 ひやおろし」など、四季折々に個性の際立つ銘酒が出荷されていることに感じ入り、日本酒の奥深さの一端に触れることができました。

簸上清酒合名会社

島根県仁多郡奥出雲町横田1222
お問い合わせ : 0854-52-1331
webサイト : http://www.sake-hikami.jp

強い意志が漲る若い蔵の力強い一歩

地域の特産品である仁多米コシヒカリを使用した「仁多米」と酒造好適米を使用した「奥出雲」、この2酒を主要ブランドとして、全量純米造りを行っている奥出雲酒造。使用する全原料米を、杜氏自らが精米するというこだわりを貫いています。それは、毎年変わる原料米の状態を見極めるために重要で、続く洗米・浸漬の作業に大きく関わる工程なのです。

2004年、大正時代から続く酒蔵を引き継ぐかたちで新たにスタートした小さな町の小さな酒蔵。その新鮮な感覚がいわば奥出雲酒造の強み。スッキリとキレの良い酒質を実現するという強い意志が漲る、将来性豊かな酒蔵です。

奥出雲酒造株式会社

島根県仁多郡奥出雲町亀嵩1380-1
お問い合わせ : 0854-57-0888
webサイト : https://www.okuizumosyuzou.com

変わること良しとした潔い酒蔵

仕込み水は蔵の側の山から湧き出る岩清水。酒米はすべて雲南市内産。そして、酒瓶のラベルには地元で漉かれた斐伊川和紙を使用するという、地元雲南市に徹底的にこだわった酒造りが際立つ木次酒造。

かつては、出雲杜氏による酒造りが行われていましたが、2006年から蔵元が杜氏を兼任する蔵元杜氏としての酒造りが行われています。代表銘柄は「美波太平洋」で、南太平洋のような綺麗な海をイメージしたお酒にと命名されています。

美味しいお酒が造れるのなら、新しい技術や製法など必要と判断したものは積極的に取り入れるスタンス。変わること進化することを良しとした酒造りには、潔ささえ感じます。

木次酒造株式会社

島根県雲南市木次町木次477-1
お問い合わせ : 0854-42-0072
WEBページ : https://www.kisukisyuzou.com

この土地で葡萄を育て葡萄酒を造る

地元の農家さんと山葡萄交配品種を植えたのが、1983年のこと。この土地の自然に向き合って、生態系を崩さない葡萄栽培からスタートした奥出雲葡萄園。年間生産量は約5万本と決して多くはありませんが、それだけに1本1本に一切の妥協をせず、丁寧に真面目にワイン造りに取り組くワイナリー。

ボトルへのラベル貼りもスタッフの手作業というところにも感じる優しさが、ワインの味にも反映されているようです。生産者だけでなく、愛飲者や地域の方々にもお越しいただいて催う収穫イベントも毎年実施。そんなところにも奥出雲葡萄園が大切にする「共生・共有」の心が息づいています。

奥出雲葡萄園

島根県雲南市木次町寺領2273-1
お問い合わせ : 0854-42-3480
WEBページ : https://okuizumo.com

豊穣な奥出雲を多彩な懐石にして

奥出雲和牛・奥出雲野菜・仁多米など、すべての料理に奥出雲産の素材を使用して、地元の魅力発信に努める懐石料理のお店。食材本来の味を活かす新たな調理法を取り入れた「奥出雲懐石」には、店主 立花秀明さんの地元を大切に想う熱い気持ちが込められています。

都会ぶらずに田舎らしい料理を心を込めて調理し、食事を楽しむ空間も料理のひとつと考える接客は「たち花」ならではの心地よさ。立花さんは、農林水産省から優れた料理人に与えられる「料理マスターズ」ブロンズ賞受賞者であり、JR西日本「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」で食の匠として車内で提供される料理の監修者のおひとりです。

和彩空間 たち花

島根県仁多郡奥出雲町横田1035−1
お問い合わせ : 0854-52-1077
WEBサイト :https://tachibana-okuizumo.com

山間地ならではの食文化と和む酒

Back
Number