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2020Summer 夏 海をめざして登る山
大山隠岐国立公園「大山」
豊かで貴重な自然が、訪れた人々を魅了する大山は、初心者から上級者まで幅広い層の登山者に人気の山。昨年11月には山頂の避難小屋がリニューアルオープン。スペースが広くなり洋式トイレになるなど、より快適な環境が整備された。登山はちょっとムリ…という方でも、ブナの森ウォークやサイクリング、星空ツアーや天空リフトなど、充実したアクティビティが歓迎してくれる。
©一般社団法人大山観光局

 鳥取県の西部にそびえる大山は、昭和11年(1936年)、富士箱根や吉野熊野とともに国立公園に指定されています。
日本の景観を代表するすぐれた環境であり、世界的にも誇れる傑出した自然の風景であることが、85年前からの折紙付き。
NHK「日本名峰ランキング」では、富士山、槍ヶ岳に次いで第3位というランキング。並み居る3,000m級の山々を抑えての快挙でした。
大山のどんなところが人々を惹きつけるのでしょうか? そのパワーをちょっと探ってみたいと思います。

標高だけでは計り知れない人々を惹きつけるパワーとは?

 独立峰である大山(だいせん)は、長い裾野が日本海に流れ込むような山容がとても美しい山です。その西側から眺める整った姿を、地元の人々は「伯耆富士」あるいは「出雲富士」と呼んで親しんでいます。一方、北側と南側から眺める姿は対照的で、剣ヶ峰(けんがみね)、弥山(みせん)、天狗ヶ峰(てんぐがみね)、三鈷峰(さんこほう)など複数の峰から成る複式火山であることがわかります。大山という名前は、これら複数の峰の総称なのです。
 公式には、大山山頂の標高は1,709mとなっています。ここでいう山頂とは、避難小屋があり、祭事が行われる第2峰の弥山のこと。最高点は1,729mの剣ヶ峰ですが、崩落が激しいため縦走路は通行禁止となっています。
 大山は、高さだけでいえば国内で699番目なのだそうですが、「日本七霊山」のひとつにもあげられています。そして、視聴者の人気投票で選出された日本の名峰ランキングでは第3位。とても誇らしいことです。
 大山には、かつて国内屈指の規模で栄えた山岳信仰の霊場という歴史と地蔵信仰に裏打ちされた全国唯一の牛馬市によって日本遺産に認定された伝統文化があります。さらに、西日本最大級のブナの原生林は「緑のダム」と呼ばれて大手飲料メーカーの天然水をまかなうなど、豊かで個性的な自然があります。山の高さだけでは計り知れないパワーに、人々は惹きつけられるのでしょうか。

登山者・関係者の力で守られ育てられている感動的な山!

 昭和50年(1975年)代頃の高度成長期、年間10万人もの登山者が大山の山頂をめざしました。すると緑の植物は踏み荒らされて土はむき出しになり裸地化。その結果、保水力を失った山頂では崩落が進んでいきました。
 こうした傷ましい状況を改善しようと、昭和60年(1985年)、地元の自然保護団体、山岳関係者、行政などが一致団結して『大山の頂上を保護する会』を設立。その取り組みのひとつとして大山独自の「一木一石運動」がスタートしました。この地道な努力が実を結び、山頂は見違えるような美しい緑の風景を取り戻しています。
 大山は日帰りで登りやすい山です。所要時間は、登り3時間 + 休憩1時間 + 下り2時間=6時間が登山の目安。近年の登山ブームで、軽装で登る人もちらほらいらっしゃるのだとか。日帰り登山ができるといっても、しっかりとした登山準備が必要です。
 大山登山は手軽さながら、登山道で出会える大山ならではの自然が魅力的で、なにより、山頂でしか体感できない絶景は感動もの。視界がよりクリアなら遥か約90㎞先の隠岐諸島、さらには約200㎞先の石鎚山(愛媛県)まで確認できるほどです。 
 山頂は、自分の足でしか登れない特別な場所。登頂した達成感は登った人だけの特権です。そのご褒美は、眼前に広がる壮大な光景。山頂をめざしてきたはずが、海にたどり着いた感覚になる。そんな不思議な体験も、大山登山ならではの魅力なのでしょう。

トレッキング

大山で推奨されている登山道は2ルート。初心者向け「夏山登山コース」は標高差約950m・往復約6km。ブナやミズナラやケヤキ、そして特別天然記念物ダイセンキャラボクの林を抜けて、整備された木道を登る。上級者向け「ユートピアコース」は細い尾根を歩くなど難所の多いコース。例年7月下旬から8月上旬をピークに、避難小屋周辺一面にお花畑が出現。ユートピアとは、この光景から名付けられた。

一木一石運動と山頂整備

ふもとに用意された石や苗木を登山者に山頂まで持って登ってもらい、その石で溝を埋めたり、緑を復活させようとする山頂復元の取組。全国的に見ても稀有な大山特有の運動。大山寺橋の南光河原駐車場側に石置き場あり。

監修

白石夏季

一般社団法人大山観光局 事務局長
2009年、一般社団法人大山観光局入社、夏山開き祭や大山の大献灯(和傘灯り)などの伝統行事、とっとりバーガーフェスタなど大山の観光振興事業に携わる。

国立公園として歩みだしてから、これだけの人の手を必要として、みんなに愛される山はそうないのではないでしょうか。弊社は登山・ハイキングの楽しさや、頂きや谷からみる星空の美しさを、日々大山の恵みとして情報発信していますが、ひとえに次の世代に豊かな自然環境と多様な暮らしを遺したいと感じていることが大きいです。自然は厳しく、一度壊れてしまえば取り戻すのに時間も人の手も要します。そのことを心に刻みながら、観光と自然を無理なく繋げていくためにも、過去を振り返りながら一歩ずつ進みたいと思います。

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