探県記 Vol.113

万年筆博士

(2017年7月)

MANNENHITSU HAKASE

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万年筆のドクター「万年筆博士」
カルテをもとに一人ひとりの特別な1本が生まれる

 
JR鳥取駅近くのアーケード商店街に、赤レンガの壁に明るい陽光が当たる美しい店舗があります。全国的にも、きっと世界的にも珍しい、フルカスタムメイドの万年筆専門店「万年筆博士」。

 
「30年前から、僕もこちらの万年筆を愛用しています。最初は細いボディーの万年筆で、2本目はエボナイト。かなり速書きしてもしっかりインクがついてくるんですよ。そろそろ新しい3本目が欲しいなと思って」と案内してくれたのは徳持耕一郎隊員。長年にわたる万年筆博士のカスタマー。店内には、徳持隊員の〝マリリン・モンロー〟が、なやましく座っています。

 
洗練されたサロンのような店内、ショーケースの中に並べられた宝石のような万年筆。それは、ため息の出る光景です。店舗の一番奥、ガラス越しに見える場所に工房があり、見たことのない機械や道具類が整えられています。オリジナルを作るために、道具もオリジナル。この端正な空間から、特別な1本が生まれているんですね。

 
万年筆博士の創業は昭和20年(1945)、初代は東京で修業を積み、疎開のために鳥取に帰っていた職人・山本義雄さん。その後、息子の雅明さんが2代目を、現在、孫の竜さんが3代目を継いでいます。

 
「時代的にも、2代目を継いだ父は大変な苦労をしたようです。商売を替えようとした時期があったと聞きます。しかし、〝その前にもう一度チャレンジを!〟と、フルカスタムメイドの万年筆を復刻させました」と竜さん。

 
1982年のこのとき生まれた〝万年筆のカルテ〟は、約1時間を費やして、筆跡や書き癖などを細かく診断する世界初の取り組み。このカルテをもとに、全て手仕事で、軸からペン先まで、一貫してひとりの職人が作るという万年筆博士のスタイルが確立しました。
「もう一度、お客さま一人ひとりに合わせたカスタムメイズの万年筆を!」その姿勢が新しさをもって受け入れられた瞬間だったのです。

 

 

口コミで広がった評判は世界まで
1本の万年筆に、たくさんのドラマがある

 
お客さまの層は、「仕事で字を書くことは少ないけれど、日記や手帳を、せっかくなら万年筆で描きたい」など、こだわりを持った30代の方が多いのだそう。
 
こんなドラマがあるのも、万年筆博士ならでは────
「出来上がりを待っていただいている間に、手紙のやり取りが始まったお客さまがいらっしゃいました。書き癖や用途はもちろん大事ですが、その方の内面を知ることができたのは、作り手にとってとても興味深いものでした」

 
あるいは、こんなケースも────
「若い女性が、〝彼のお父さまにプレゼントしたい〟といらしたことがありました。なんでもお父さまはご病気で余命が限られているのだとか。その方には優先的にお作りしました」
 
そんな特別な1本を求めるお客さまは海外にも多く、割合は国内外で半々というのも驚きです。
インターネット上にある万年筆のファンサイトで万年筆博士の評判を知った海外のお客さまとは、Eメールでやり取り。万年筆博士が目的で来日されるお客さまもいらっしゃるほどなんです。

 
「ひとりのお客さまに、最高のものを作れなければいけないと思っています」と竜さん。
丁寧で美しい仕事から生まれる万年筆は、月に12本ほどがやっとだといいます。ですから、〝今オーダーすると1年半待ち〟それでも欲しいと思える逸品。参考までに、価格帯は、6万円から45万円ということです。

 
そして気になったのは、万年筆の隣に並ぶ、素敵なアンティーク風のボトルに入った〝イカ墨のインク〟。実はこれも、万年筆博士オリジナル。
 
ちなみに、TWILIGHT EXPRESS瑞風のチェックイン時、山本竜さんの万年筆を使っていただいているんです。

 

【アクセスについて】
●万年筆博士へのアクセス/JR鳥取駅から徒歩5分
●鳥取県鳥取市栄町605
【WEBサイト】万年筆博士