探県記 Vol.129
とうふちくわ
(2018年6月)
TOFU CHIKUWA
11551
江戸時代、お殿様の倹約から誕生!
鳥取市の人はおやつ代わりに食べて育つ
誰からも愛されているソウルフード
鳥取市の一世帯あたりの竹輪の消費支出額は、なんと日本一。しかも30年以上、続けてトップの座にいます。そこまで竹輪が好きな鳥取市民のソウルフードが「とうふちくわ」。名前のとおり、豆腐と魚のすり身を混ぜて、蒸し上げた竹輪です。豆腐を使った加工食品は全国にありますが、ちくわに利用しているものは他に類を見ません。まさに、鳥取県内でも東部にだけ伝わっている郷土食なのです。
その姿形は、一見するとただの白い棒。でも、味はとても繊細で、ふんわり豆腐の風味と香りがして、噛みしめるほどに魚の旨みがじわっと口の中に広がっていきます。食べ方は、そのまま丸かじりが一番。子どもはおやつ代わりに、大人は生姜醤油やオリーブオイルを付けてお酒の肴に。やさしい味なので地元の学校給食の食材や、家庭では赤ちゃんの離乳食にも使われています。
「とうふちくわ」の元祖といわれる、鳥取市の「ちむら」を訪ねてみました。創業は慶応元年(1865)、初代・千村清次郎が鳥取市元魚町で作り始めたとされています。
「質素倹約に努めていた鳥取藩主の池田公が、魚の代わりに豆腐を食べるよう奨励されたことから生まれました」と説明してくださったのは、専務の千村大輔さん。当主の五代目とともに、おいしい商品づくりに全力を傾ける若き六代目です。
ちむらでは、江戸時代から代々伝わる味と食感を職人の舌を頼りに復元、「鳥取市の食文化として、ずっとこの先も、とうふちくわを作り続けることが地域貢献につながると信じています」と現在は一子相伝で、その味が守られています。
豆腐で左右される味と食感
トマトを加えたイタリア風など
毎年、新しい味が続々と登場
ちむらの「とうふちくわ」は豆腐を主材料に、「木綿豆腐7:白身魚のすり身3」の割合で混ぜられています。「豆腐の風味がダイレクトに出ますね。豆腐の加減が重要で絞りすぎると固くなり、大豆の旨みも逃げてしまいます。反対に豆腐が柔らかすぎると、ちくわの食感になりません。そのバランスに気を配っています」と製法の工夫を語る千村専務。
徹底して原料にこだわり、豆腐は自家製です。地元らしい味を出したいと、豆腐に最適な淡白でクセのない味を特徴とする鳥取県産大豆と、鳥取市を流れる千代川の支流を水源とする良好な水が使用されています。
鳥取市河原町の布袋店「とうふちくわの里」は、製造工場を併設した旗艦店で、常時80種類ほどの商品がずらりと並んでいます。「ワインにあうトマトとチーズのとうふちくわ」「カレーとうふ」「レモンとうふ」など、「とうふちくわ」だけでも約10種類。毎年4月になると新商品が発表され、今年は「ちりめんとうふちくわ」が登場しました。おいしいと大好評で、定番化が決定したそうです。
この布袋店では揚げたての天ぷら、かまぼこなども購入できます。また、ちくわの手づくり体験コーナーもあって、週末や休日になると親子連れや観光客で賑わっています。そのほか、ちむらの商品はJR鳥取駅、鳥取大丸店、かろいち、地元のスーパーなどでも販売されています。
「もっと多くの方々に、とうふちくわを知ってほしいと思います。食材としての可能性も秘めていて、野菜炒めや麻婆豆腐によく合うんですよ。ヨーロッパの和食ブームに乗じて、海外へも鳥取市の食文化として広めていきたいですね」と千村専務は新しい展開を思い描いておられます。
手頃なサイズと値段で、種類も多彩な「とうふちくわ」。鳥取県のお土産としてはもちろんのこと、食べやすいので旅行の車中のおやつ、おつまみにも最適です。ぜひ一度、味わってみてください。
【アクセスについて】
●とうふちくわの里ちむら・布袋店へのアクセス/JR河原駅から車で9分
●鳥取市河原町布袋556
【WEBサイト】とうふちくわの里ちむら