探県記 Vol.130
因州和紙
(2018年7月)
INSHU WASHI
11805
観光列車「あめつち」の照明にも採用
「因州筆切れず」と言われるほど高品質で
書道家に愛用されている因州和紙
今年7月1日から運行開始になった観光列車「あめつち」。山陰の魅力を伝えようと、車内に両県の工芸品を使うなど、趣向を凝らした装飾が話題となっています。その天井を飾っているのが、鳥取市の青谷地区と佐治地区で製作されている因州和紙です。1号車は青色と黄色、2号車は赤色と緑色の因州和紙がランプシェードのように用いられ、居心地の良い光の空間を演出しています。
因州和紙は平安時代の法令集「延喜式(えんぎしき)」に記録を残し、その起源は少なくても千年以上前とされています。江戸時代には、因幡の鹿野城下を治めた亀井茲矩(かめいこれのり)の朱印船貿易によって、海外まで輸出されました。明治時代に入ると技術が向上したほか、道具や原料の改良により、生産量が飛躍的に伸びて最盛期を迎えました。
現在は書道や水墨画に用いる画仙紙の一大産地として知られ、日本での生産量の6〜7割を占めています。特に手漉きの高級画仙紙は高品質を誇り、佐治の三椏紙は墨が鮮明で筆先も傷みにくいことから「因州筆切れず」と呼ばれ、全国の書道家などに愛用されています。
これまで因州和紙は、伝統の技術を基礎に、時代に合わせた新しい展開を模索してきました。そして今は、「あめつち」に採用した因州和紙を製作する「谷口・青谷和紙株式会社」が、世界的に注目されようとしています。1990年、同社は鳥取県産業技術センターの指導の下、世界で初めて継ぎ目のない立体漉き和紙の技術を開発。プロダクトデザイナー・喜多俊之氏とのコラボレートから誕生した照明器具は、大きな反響を呼び海外展開へのきっかけにもなりました。
真似のできない立体漉き和紙で
世界的なデザイナーとコラボレート
世界に広まる因州和紙の温もり
「和紙の世界にもマーケティングという概念が必要だと考え始めました。そこで、外部のデザイナーの方々にディレクションを依頼して、インテリアの分野を手がけるようになったのです」と語るのは社長の谷口博文さん。
以後、因州和紙の可能性を追求しながら、多摩大学大学院教授・紺野登氏、インテリアデザイン事務所「内田デザイン研究所」、佐藤オオキ氏が率いるデザインオフィス「nendo(ネンド)」、和紙デザイナー・堀木エリ子氏など、世界的に活躍する精鋭たちとコラボレート。美しい照明器具や壁面装飾などを発表し、国内のみならず欧米でも高い評価を受けています。
コラボ作品は一つひとつ手づくりで製作され、ときにはデザイナーの求めに応じて、巨大な10m×3mの手漉き和紙を10人ほどで製作したことも。今年8月には、香港に建つタワーマンションのエントランスを飾る作品も完成予定で、ますます海外での活躍が広がりそうです。
単体の作品をつくる一方、工場ではオートメーションのマシンを稼働し、和紙の壁紙が生産されています。機械メーカーと共同開発した全国でも珍しい三層漉きが可能なマシンで、最大幅1.2mの和紙をエンドレスの長さで生産できるそうです。
「都市圏の商業空間などで使われる壁紙です。原料の配合を工夫して、照明が当たるとほんのり光る壁紙なども作っています。当社は、アート作品の製作と大量生産の中間的なポジションにあると言えます」
日本の伝統文化でもある和紙をもっと知ってほしいと、温かな風合いを活かした封筒、便せん、色紙など、昔ながらの暮らしの中の和紙も作り続け、地元の「あおや和紙工房」などで販売されています。
「この先、千年も万年も因州和紙を残したい。和紙を通した、やわらかな光から生まれる寛ぎ、和み、そして温かさに共感していただけたらと思います」
もし、因州和紙にふれる機会があったら、谷口社長の言葉を思い出してみてください。様々な表情や味わいを持つ和紙が、静かに語りかけて来るかもしれません。
【アクセスについて】
●谷口・青谷和紙株式会社へのアクセス/JR青谷駅から車で10分
●鳥取市青谷町河原358-1
【WEBサイト】谷口・青谷和紙