探県記 Vol.150
岡富商店
(2020年2月)
OKATOMI SHOTEN
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いま話題! 大田市の大穴子は
プリプリとした食感が自慢
日本一の水揚げ量を誇る島根県
今、島根県の穴子が注目されているのをご存知でしょうか。穴子といえば、「江戸前寿司」を代表するネタの一つ。東京湾や瀬戸内海、長崎県対馬などが産地として有名ですが、実は平成29年から島根県が全国第1位の水揚げ量を誇っています。島根県の穴子は、大きさが特徴の一つです。東京湾や瀬戸内海など太平洋側でとれる穴子は約30~45cmのサイズ。これに比べ、島根県産は小さいもので40cmくらい、大きいものになると70cmほどになります。
島根県の穴子漁は底引き網漁業で行われ、漁獲量の半分が大田市に水揚げされています。大田市の久手港にある鮮魚店、岡富商店を訪ねてみました。
「大田市の沖合に、穴子のいい漁場があるようです。北から流れる冷たい海流と、暖かい対馬海流がぶつかる潮目があって、プランクトンや小魚が豊富なんですよ。穴子のエサ場になっているのかもしれませんね」と語るのは、二代目社長の岡田明久さん。
条件の良い海域でエサをたっぷり食べた「大田の大穴子」は、旬に関わらず年間を通じて脂の乗りが良いそうです。調理するとふっくらやわらかく、皮はプリプリとした歯ごたえ。これまでの細長い穴子のイメージは、どこかに飛んでいきます。他県に負けない大きさと味、そして日本一の水揚げ量に盛り上がる島根県では、穴子をテーマにしたイベントが各所で開催されるようになりました。また、テレビのグルメ番組で取り上げられるなど、全国からも注目されています。
「地元産の穴子の味を、もっと知ってもらいたい」。そんな想いから岡富商店では、珍しい穴子の一夜干しを手づくりしています。「天女の羽衣(あなご一夜干し)」と名付けられ、保存と配送に便利な真空冷凍パックになって、全国に届けられています。食べるときは素焼きにして塩を添えたり、肉厚なので天ぷらにしたり。ワサビ醤油、柚子胡椒などにもよく合うと大好評です。昨年は、農林水産省が開催する「フード・アクション・ニッポンアワード2019」の入賞産品にも選定され、まさに折り紙付きとなりました。
早朝に漁へ出て、その日のうちに水揚げ
「一日漁」という地の利を生かして
刺身にもなる魚を塩のみで一夜干しに
岡富商店は昭和25年、鮮魚店として創業。鮮魚をできるだけ無駄にしないよう、昭和40年頃から干しカレイなど、一夜干しの製造を開始しました。現在は穴子をはじめ、白いか、はたはた、かれい、のどぐろなど、約30商品におよぶ上質な干物がつくられています。
地元でも口コミになる、そのおいしさの秘訣を聞くと「創業以来、新鮮な魚にこだわっています」と即答された岡田社長。代々受け継がれてきた、揺るぎない信念が伝わってきました。大田市の漁港では、早朝に漁へ出て、その日のうちに水揚げする「一日漁」が行われています。岡富商店では、この鮮度抜群の魚を一夜干しに仕上げています。刺身にしても極上の魚なので、おいしさは言わずもがな。また、無添加にこだわり、塩だけで魚本来の旨みを最大限に引き出しています。
「一夜干しの魚は下処理をしてから、塩水に漬けて味を深めます。塩水にすることで塩味のムラをなくし、浸透圧で水分を抜く作用もあります。塩分濃度は0.5%ごとに違う塩水で何度も試し、魚種ごとに最も旨みが出る濃度を追求しました」
本社に隣接する加工工場を見学させてもらうと、ちょうど穴子を開いているところでした。まず、背を手前に目打ちをして固定。次に背びれの下に包丁の先を差し入れると、尾の先端まで一気に引き落とします。それから内臓をきれいに取り除き、中骨をそぎ取ります。最後に尾びれを落とし、首をはねると完了。あまりの手早さに簡単そうに見えてしまいます。しかし、とても難度の高い作業です。穴子は下処理が重要で、味の仕上がりに差が出るためヌメリや汚れなどは徹底的に取り除くそうです。こうして下処理された穴子は、低温の塩水に漬けてゆっくりと熟成をほどこした後、冷風乾燥機で干物に仕上げられます。
それは、ごまかしのない、とてもシンプルな工程でした。だからこそ、一つ一つのことをまじめに丁寧に、一途に魚と向き合わなければ、今の味は出せないことに気付かされます。ぜひ一度、「大田の大穴子」を味わってみてください。
【アクセスについて】
●有限会社 岡富商店へのアクセス/JR久手駅から徒歩で約5分
●島根県大田市久手町波根西1988-3
【WEBサイト】有限会社 岡富商店