探県記 Vol.88
鍛冶工房弘光
(2016年10月)
KAJIKOBO HIROMITSU
5854
静まりかえった旧城下町の一画で
昔ながらの鍛造にこだわる鍛冶工房
中海に程近いJR安来駅から、山間を目指して約20㎞行くと、かつて月山富田(とだ)城の城下町として栄え、出雲国の中心地であった町、広瀬に辿り着きます。
静まりかえった町並みに、往時の賑わいは戻りませんが、古びてなお風情ある伝統的な雰囲気が漂っていて、探県心をくすぐる場所です。
そんな広瀬の町の一画で、約200年の昔の江戸時代・天保年間より、鍛冶業を営む『鍛冶工房 弘光』。当主は10代目・小藤洋也(ひろなり)さん。父の背中を見て育った11代目・宗相(しゅうすけ)さんと、妹の由貴(ゆうき)さん。そして、若いお弟子さんもいて、頼もしい後継者が立派に育っている工房です。
「製法には、鋳型を使って量産できる鋳造(ちゅうぞう)と、ひとつひとつ手で叩いてつくる鍛造(たんぞう)がありますが、うちは全て鍛造でつくっています」と11代目の宗相さん。この日、仕事の手を休めて、案内をしてくださいました。
「鍛造とは、ひとつとして同じものがない、全部がオリジナル、全部が一点ものというわけなんですね」と驚いた様子の木内キャプテンです。
店内にディスプレイされているのは、色々なタイプの燭台に、置き型もある風鈴など。古風でいて新しい鍛造品は、思わず手にとってみたくなるものばかり。
「手のひらサイズの燭台でも、やはり鉄。このどっしりとした重さに安心感がありますね」と小幡隊員。花の形に透かしが入る小ぶりなロウソク立て〝透かし燭台〟を気に入った様子です。
博物館のような薄暗い工房から
デザイン性の高いインテリアが生まれている
店舗の奥が、鍛冶工房。そこは、タイムスリップしたような鍛冶職人の世界でした。
煤で黒くなった工房に響くのは、カンカン、トントン、リズミカルに鉄を叩く音。900℃にもなる炉から、ときおり舞い立つ火の粉。使い込まれた道具たち。中には、現在は使われていない機械カプーリーなどもあって、工房内は「博物館みたいだね」と言われることがあるのだそうです。
「溶接を使わないのが、こだわりですか?」と、熱心に仕事を見つめる木内キャプテン。
「溶接は美しくないですからね」と10代目・洋也さん。先々代から受け継ぐ〝鉄床(かなどこ)〟を使って生み出す製品は、過酷な力仕事とは裏腹に、繊細で美しい。その確かな熟練の技を見込まれて、旧白洲邸〝武相荘〟から依頼が舞い込み復元したのが、吊り下げ燈明台に花器のしつらえ〝風季灯〟鍛冶工房弘光の人気商品になっています。
父・洋也さんの向かいでは、リズム良く、由貴さんが仕事の真っ最中。
「鉄は、どうしても固いイメージ。でも、由貴さんが女性の感性で、女性が求める柔らかな作品をつくられているのが、すごく素敵だなと思います」と小幡隊員。
鍛冶工房弘光の鍛造品は、確かに和の逸品なのだけれど、洋の空間にもぴたりと納まります。
かつて、刀や小農器具・生活用具などをつくっていた鍛冶工房弘光は、今、現代のライフスタイルにマッチしたデザイン性の高いインテリアとして、こだわりを持って暮らす人々に求められているのです。
【アクセスについて】
●鍛冶工房弘光へのアクセス/JR安来駅よりバスで45分
●島根県安来市広瀬町布部1168-8
【WEBサイト】鍛冶工房弘光