探県記 Vol.132

いずもまがたまの里 伝承館

(2018年8月)

IZUMO MAGATAMA NO SATO DENSHOKAN

11947

皇室や出雲大社に勾玉を献上
良質な青めのうの産地として
古式ゆかしい「出雲型」を今日に継承

 
来年5月1日、元号が平成から新しくなります。今の皇太子が天皇となるとき、皇位のしるしとして「三種の神器」を受け継ぐとされています。3つの宝物とは「鏡・剣・勾玉」。日本史の授業に登場する、八咫鏡(やたのかがみ)、草薙剣(くさなぎのつるぎ)、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)です。このうち鏡は伊勢神宮、剣は熱田神宮に祀られ、勾玉だけは皇居に安置されているそうです。

 
『日本書紀』によると皇居にある勾玉は、島根県松江市玉造(たまつくり)から産出された「出雲石」を使用したと伝えられています。「出雲石」とは通称名で、学術的には宝石の一種「碧玉(へきぎょく)」。緑色、赤色、黄色、白色などがあり、山陰では緑色のものを「青めのう」「青石」と呼んでいます。
松江市内にある花仙山(かせんざん)は、古墳時代から青と緑を混ぜたような深緑色をもち、硬くてキメの細かい最上級の「青めのう」を産出してきました。良質な原石に恵まれたこともあり、玉造は古代から勾玉の生産地として知られ、大和朝廷への献上が許されていました。一説に「玉造」の地名は、これに由来するといわれています。

 
現在も「いずもまがたまの里 伝承館」では、出雲石を使用して、ぷっくりとした丸みを特徴とする「出雲型勾玉」をつくる伝統的な技法が継承されています。今日、勾玉をつくることができる職人さんがいるのは国内で同館だけ。今も皇室や出雲大社などに勾玉を献上している唯一の作り手です。

 

 

耳と目と手、六感まで研ぎ澄ます
めのう細工職人の勾玉づくり
それを見学できるのは全国でここだけ

 

 
「いずもまがたまの里 伝承館」を訪ねてみました。館内には工房だけでなく、勾玉ミュージュアムなどが併設され、女性に人気のパワーストーンを使ったアクセサリーもたくさん並んでいます。勾玉づくり体験コーナーもあり、楽しそうな子どもたちで賑わっていました。最近、日本神話を題材に勾玉が力を発揮するTVアニメが再放送されたことから、地元の小学生に勾玉の人気が高まっているそうです。

 
めのう細工職人になって、もうすぐ20年になる村田誠志さんにお話を伺いました。「めのうは、太古から人々に寄り添ってきたところに魅力を感じます。出雲型勾玉は丸みをつけるため溝を深く削るので手間がかかり、美しく磨き上げるには熟練した技術が必要です」
村田さんと女性2名を含め、めのう細工職人は全員で5名。師匠・松下正一さんの下、伝統的な技法を次世代に継承しようと、日々研鑽を積んでおられます。工房を見学させてもらうと、キーンキーン、シューンシューンと原石を削る音が響いていました。

 
「まず青めのうを勾玉の原型に荒削りします。それを段階的に研磨して形と表面を整えていきます。目での確認だけでなく、削り具合の音を聞き分けること、指先の感覚も大事です」と語る村田さん。「思い通りにできることはまずないですね。ときには六感も使います」と、先輩の恩田幸仁さんは生粋の職人かたぎです。

 
そんな職人さんたちの生きがいは、来館者の方々に勾玉の奥深い味わいを知ってもらうこと。「勾玉を好きになってもらうと、とても励みになります」と手にした一つを村田さんは愛しげに見つめておられました。
同館からも見える花仙山で2012年、約50年ぶりとなる採掘が行われました。そのとき採掘された原石は約2トン。現在、これを使用していますが、将来的には原石の枯渇も心配され、ますます「出雲型勾玉」は貴重品になりそうです。

 
勾玉は一対にすると円(縁)になることから、縁結びのご利益があるともいわれます。実は大阪から島根にIターンした村田さん。「めのう細工職人になったことで、松江出身の妻と出会うことができました」と笑みがこぼれました。山陰を旅するときは「出雲型勾玉」を手にとってみませんか。素敵なご縁がありますように・・・・。

 

 
【アクセスについて】
●いずもまがたまの里 伝承館へのアクセス/JR玉造温泉駅から車で約5分
●島根県松江市玉湯町湯町1755-1
【WEBサイト】いずもまがたまの里伝承館