探県記 Vol.96

赤名酒造

(2017年1月)

AKANA SHUZO

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地元の人々の熱意が町を動かし
歴史の地・銀山街道に蘇った赤名酒造

 
石見銀山の銀を輸送した赤名の町並み「銀山街道」。かつて街道沿いには、たくさんの宿が並び「赤名宿」と呼ばれていました。
平成26年には「銀山街道赤名宿」として、国土交通省が実施する「夢街道ルネサンス」に認定されるこの風情ある一画に、「酒づくり交流館」の看板を掲げる酒蔵「赤名酒造」があります。
 
昭和4年(1929)、地元にあった3つの酒蔵が合併して誕生した赤名酒造は、一時期、廃業が検討されるまでに生産が落ち込んでいましたが、「町から酒づくりの文化を消してはならない」という地元の人々の熱意によって飯南町が動き、見事に再生された酒蔵です。
 

現在、赤名酒造の杜氏を務めるのは、東京農業大学出身の三島崇暁さん。在学中、東北の酒蔵で杜氏の仕事を学んだ経験をもつ、若く頼もしい杜氏です。
 

三島さんが杜氏になって、まず最初に手がけたのは、煙突と大屋根に往時の面影を残して、酒蔵を近代化することでした。
 

進化形の酒蔵として世界を見据え
これからのモデルケースにもなり得る

 
今回ご一緒するのは、きき酒師でもある石原美和隊員。山陰の酒蔵を訪ねた著書も出版するほどの適任です。
 
赤名酒造の酒蔵に入るには、履き物を2度履き替え、白衣とキャップを着用し、さらに粘着テープでコロコロ。どんなに小さなホコリも侵入させない徹底ぶりで、入念な手洗いも必須です。
 

 

建物の中は、薄暗い酒蔵というのではなく、真っ白な研究室といったイメージ。安定した高品質のお酒をつくるため、コンマ何%の世界まで突きつめたデータによる緻密な仕事が行われています。
 

「酒づくりは、水と米と麹だけ。毎回同じ味にするためには、精密な計算が必要です」と三島さん。
そんな科学者のような言葉の一方で、「仕込み前の夏場にはトレーニングをします」とも。
蒸した酒米・麹・酒母の入った大型タンクの中身を、櫂(かい)を使って混ぜる作業は「腕がパンパンになる」力仕事。これを3回に分けて行う三段仕込みは、手の込んだ昔ながらの仕込み方です。
 

脚立を上り、タンクを覗き込む木内キャプテン。
「プクプクと立つ泡がすごく神秘的。生きているようですね」と感心しつつ、ちょっとだけ櫂で混ぜる作業も体験しました。
 

地元飯南町の米を100%使用した純米の酒づくりを追究する赤名酒造。代表銘柄は「絹乃峰」。
近代化による徹底した衛生・品質管理は、その先に海外進出という確かなビジョンがあるから。
すでに平成28年には、タイへの輸出を実現させています。
 
三島さんという人材を得て、再生に成功した赤名酒造。その手法は、どこか異端児のようにも見えますが、地元の優れた醸造文化を未来へ繋げたいという願いはひとつ。進化形の酒蔵として、これからのモデルケースになるのかもしれません。
 

 

【アクセスについて】
●株式会社赤名酒造へのアクセス/JR松江駅より、高速バス広島行き「たたら壱番地」下車、町営バスに乗り換え飯南町「赤名駅」下車、徒歩5分
●島根県飯石郡飯南町赤名23

【WEBサイト】株式会社赤名酒造