探県記 Vol.139

お嬢サバ

(2019年3月)

OJÔ SABA

12944

安心して生で食べられ、
極上の脂のりを味わえるブランド鯖
今年も3月8日(サバの日)から出荷開始

 
鉄道は地域に支えられています。大切な地域を新しい産業で活性化できたらと、JR西日本は沿線で盛んな水産業に着目し、水産物の陸上養殖に取り組んでいます。現在のところ、マサバ(鳥取県)、牡蠣(広島県)、サクラマス(富山県)、車海老(広島県)、トラフグ(山口県)、ヒラメ(鳥取県)の6魚種を事業化。「お嬢サバ」「オイスターぼんぼん」「べっ嬪さくらます うらら」「とれ海老やん」「大吟雅とらふく」「白雪ひらめ」と、それぞれに名付けたユニークなネーミングも話題となっています。

 
そもそも、「なぜ鉄道会社が陸上養殖?」という素朴な疑問も・・・・。そのきっかけは、鳥取県にありました。鳥取県は全国に先駆け、自然ろ過された地下海水を使って、マサバの陸上養殖試験を行っていました。地下海水を使った陸上養殖は、アニサキスなどの寄生虫が付きにくいのが特徴で、安心安全な水産物を提供することができます。新しい水産業として陸上養殖に可能性を見いだしたJR西日本は、2015年、鳥取県との共同研究を実施。これが陸上養殖に参入する足がかりとなりました。

 
今回、JR西日本が初めて陸上養殖を手がけた、鳥取県岩美町陸上養殖センターを訪問しました。網代漁港にある同センターは、2017年に開業。高付加価値マサバ「お嬢サバ」を育て、昨年は約1万5000尾を販売。今年も、サバの日の3月8日に出荷解禁です。
「お嬢サバ」はセリにかけず、直接お店に販売されます。主にホテル、サバ料理専門店、高級回転寿司、割烹へ出荷。地元では岩美町浦富の料亭「海陽亭 道の駅 きなんせ岩美店」などで味わうことができます。

 
きれいな地下海水を使い、箱入り娘のように大切に育て上げられた「お嬢サバ」の味は別格です。特に脂のりは抜群によく、「醤油がはじいて付かない」と言われるほど。青魚特有の生臭さがなく、寄生虫の心配もないため、白子や真子、肝も生で安心して食べることができます。出荷量が少なく、なかなかお目にかかれないこともあり、貴重なブランド鯖としての人気が高まってきています。
 

「お嬢サバ」に育つ理由は
きれいで豊富な地下海水と
わが子のように注がれる愛情

 

同センターは、できるだけ自然に近い環境でサバを育てるため、屋外に水槽を整備しています。敷地内から汲み上げている地下海水は、塩分やミネラル成分が網代漁港の海水とほぼ同じだそうです。大きな飼育用の水槽9基と、出荷用の水槽4基がずらりと並ぶ光景は壮観です。1基の水量は50トン。常時、きれいな地下海水に入れ替え、1基ごとに一日500トンも使われています。水槽の中では、サバたちが群れをなして元気に回遊していました。陽光が差すと、きらりと青緑色に光り、背腹の縞模様は驚くほど鮮明です。

 
「屋外の施設なので、気候や気温の影響が大きいですね。最適な水温は15度。冬は水温が下がって動きが鈍くなったり、雪やヒョウが降って弱ったりすることがあります。サバは人間の体温で火傷をするほどデリケートなので、夏には水温が上がり過ぎないよう気を使います」
そう語るのは同センターの所長を務める吉村忠男さん。屋外のためカラスや野良猫による被害もあり、水槽にネットを被せるなど苦労は絶えません。一日3、4回行う餌やりでは、小柄なサバも食べられるように配慮します。水槽に渡した一枚板の上に乗った吉村センター長が、一匹一匹の様子を見ながら少しずつ優しく餌をまきます。

 

 
今年の出荷を終えて、6月になると鳥取県栽培漁業センターでふ化した稚魚を受け入れます。この時、まだ小さい5gほどの稚魚を約10ヶ月間で250gほどに育て上げ、翌年3〜5月頃に出荷します。
「順調に育ってくれると嬉しいです。本当は手放したくないですね。もう少し手元において、立派に育てたいと思ってしまいます」とわが子のように愛しむ吉村センター長。
出荷の際はサバの肌を傷つけないように、海水ごとすくえる「水たも」を使用するなど、別れ際までこまやかに愛情が注がれています。

 
「今後は増産を目指します。これまでのノウハウを活かして、さらに上質なサバを育てたいですね」
機会があれば、ぜひ一度「お嬢サバ」を味わってみてください。まだ新しいジャンルの陸上養殖。地域を元気にするJR西日本の取り組みは、ますます続いていきます。

 
【アクセスについて】
●鳥取県岩美町陸上養殖センターへのアクセス/JR大岩駅から車で約10分
●鳥取県岩美郡岩美町大谷 2182-484(網代漁港内)
【WEBサイト】お嬢サバ