探県記 Vol.127
奥出雲和牛
(2018年5月)
OKUIZUMO WAGYU
11220
豊かな奥出雲地方で生まれ育った黒毛和牛だけが一流シェフを魅了する奥出雲和牛になれる
幻の黒毛和牛───そう呼ばれる牛が、島根県は奥出雲地方(雲南市、奥出雲町、飯南町)にいると聞き、仁多郡奥出雲町にあるJAしまね雲南地区本部直営の「仁多肥育センター」を訪ねました。
奥出雲地方は、古くから牛との関わりが深く、主に、たたら製鉄の物資運搬や、農耕用に活用されていました。ですから、肉牛の歴史はそれほど長くなく、知名度もまだあまり高くはないのだとか。
奥出雲地方で生まれ、奥出雲地方の環境で大切に育てた黒毛和牛だけを「奥出雲和牛」(JAしまねブランド)と呼んでブランド化すると、その品質の高さはたちまち話題となりました。けれど、高まった人気に生産量が追いつかず、「幻の黒毛和牛」と呼ばれるようになったのです。
「サシも入っていますが、赤身の味わいが濃い。脂を抑えるので、本当においしい!奥出雲和牛に出会っていないと生まれなかった料理は沢山あります。」というほど、その味に惚れ込んでいるのは、『Le Restaurant Hara au naturelle (ル・レストラン ハラ・オ ナチュレール)』のオーナーシェフ、原博和隊員。JR西日本の寝台列車『TWILIGHT EXPRESS 瑞風』で出される料理を開発・監修する“食の匠”のひとりです。
仁多肥育センターは標高350mほどの山あいに建つ牛舎、ここでは250頭の黒毛和牛が飼育されています。
牛舎を覗くと、頼もしい若者2人が甲斐甲斐しく働いていました。糸原亜実さんは入社3年目。最初の頃は牛の出荷時には泣いていたそう。
入社2年半の小池良侑さん。実家では酪農を営んでいるそうです。
各パドックには、おが粉が敷かれ、それぞれに5頭の牛たちが同居。入口に一番近いパドックにいたのは、生後8~9ヵ月の仔牛たち。奥に進むにつれて、成牛になっていきます。
「何㎏まで大きくなるんですか」と原隊員。
「270~280kgの生後8〜9ヶ月でここにきて、約20ヵ月間肥育。700~800㎏になって出荷です」と説明するのは、JAしまね雲南地区本部の宮崎宏さんです。
携わる人々の牛への思いによって完成する
肥育という牛づくり
肥育とは〝牛をつくる〟ということ。
現在、飼育されているのは、生後4ヵ月時に去勢された雄牛だけ。雌牛の場合、発情期に脂がつきやすいなど、肥育が大変難しいのだそうです。
「一体一体の個体管理に細心の注意を払っています。日々のチェックがとても重要。ビタミンのコントロールに最も神経をつかいますね」と、JAしまね雲南地区本部の小田川悟さんは言います。
奥出雲の緑に囲まれた静かな自然の中、大切に飼育されている黒毛和牛たちは、仔牛も成牛も、とにかくみんな人懐っこくて、穏やかで、すぐに近寄って来てくれます。なんでも、ストレスを与えて育った牛の肉は変色が早く、酸化しやすいのだそう。つまり、奥出雲地方生まれの仔牛を、そのまま奥出雲地方で飼育することは、輸送によるストレスをなくすことにもつながっているというわけ。
豊かな環境と、携わる全ての人の牛への思いが、「奥出雲和牛」のおいしさの秘密でもあったのです。
真面目で勉強熱心な若者たちが、愛情を持って育てる「奥出雲和牛」だから、売る側も、料理する側も一生懸命になれる。そこには、素晴らしいリレーが出来上がっていました。
【アクセスについて】
●JAしまね雲南地区本部へのアクセス/JR木次駅から車で6分
●島根県雲南市木次町里方1088-6
【WEBサイト】JA奥出雲和牛